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渋谷道玄坂のコーヒースタンドの「美しい」コーヒー

道玄坂の上、1杯のコーヒーの裏側にあるストーリーを聞く

「スペシャルティコーヒー」が大きく注目され始める少し前、2014年にオープンした渋谷・道玄坂にある小さなコーヒースタンド。都心ですらマイクロロースターが少なかったこの時期に、道玄坂上の角に店を構えたABOUT LIFE COFFEE BREWERSだ。

人と人をコーヒーでつなげることをコンセプトに、“東京で一番美味しいコーヒーを作りたい” “東京のコーヒーのスタンダードを変えたい”という思いでコーヒーと向き合ってきたマネージャーの神戸渉。今や、!!!(チック・チック・チック)やReal Estateなどの来日アーティストも多く訪れるこのコーヒースタンドだが、オープン当時は、スペシャルティコーヒー自体が“酸っぱくて薄いコーヒー”と認識されていた。そんな中、彼はどのように新しいコーヒーの魅力を発信していたのだろうか。


「とにかく喋って伝えることですね。コーヒーといえば深煎りでガツンとした苦味のあるイメージだったから、僕らのコーヒーがどんなものかっていうのをとにかく喋りました。お客さんはもちろん、グアテマラやエチオピアのコーヒー農園に足を運んだり、商社の方々とも密にコミュニケーションをとって、こういう思いでやっているんだっていうことを伝えて。輸入から、焙煎、抽出、そしてお客さんに届ける道筋をいかにちゃんと説明できるかっていうのは、コーヒー1杯に対する価値になっていると思います。

僕自身2010年くらいに旅行でニューヨークにいったときに、カフェ・インテグラルというカフェのバリスタにすごく感銘を受けて。初めて来た日本人に『どこから来たの?』ってすごく気さくに話しかけてきて、聞いてもいないのに豆の説明をし始める。そんな接客がすごく良くて。フランクなのに、コーヒーを淹れるのはすごくきっちり数値をはかってやっていたのも驚きました。コーヒーって、感覚を鍛えてできる熟練の職人技って意識が強かったので、こんなにきっちりやるんだなって衝撃的だったんですよね」



厨房機器の会社員からバリスタへ

ABOUT LIFE COFFEE BREWERSに立つ前は厨房機器の会社に勤め、エスプレッソマシンなどのメンテナンスをしていたという神戸。一直線にバリスタへの道を歩まなかったことを「知識もたくさん得られたし、間違ってなかった」と断言しつつも、当時はバリスタへの憧れも抱いていたという。

「業者って影の存在なので鬱屈としたものがあって。業者として手を真っ黒にして作業しながら、横にいるバリスタを見て『こいつらはすごく華があるのになんで俺はこんなに目立たないんだ!』って思って仕事をしてました。でも、当時はバリスタやりたい、お店やりたいっていう人が多い時期だったんですよね。僕はみんながそっちにいくと面白くないなって思っちゃう性分なんで、機材から入ったところもあります」


「そんな性分はいつから?」と聞くと子供の頃からだという。

「小さい頃から音楽が好きで。パンクがかっこいいな、じゃあまずはピストルズだなって、1時間くらいかけて隣町のタワレコまでCD買いに走ったりしていたんです。でも音源以上の情報っていうと、田舎だったしインターネットもないしで、雑誌の情報を深読みしていくしかなかった。

それが進んでいって『DOLL』っていう結構ハードコアな雑誌を買ったりとかしてて、『なんでそんなの知ってるの?』みたいな知識だけはあったんですよ(笑)。昔から知らないことを深く知りたい欲求はすごくあったんですけど、なんか過剰なほうにいっちゃうのは、みんながバリスタやりたいって言ってるときに機材のほうにいったのと通じるかもしれないです」


コーヒーと音楽は似てる? 音楽好きな神戸のこだわり

大量生産、大量消費のコーヒーカルチャーに対して、スペシャルティコーヒーもある種カウンターカルチャーだったと言える。パンクキッズだった神戸の性分と、スペシャルティコーヒーというカルチャーが交差するのもうなずけた。店自体にも音楽好きな神戸ならではのこだわりが垣間見える。

「ここの店、僕的にはDJブースっぽいイメージがあって。テクノのアーティストとかってシンセサイザーに囲まれてプレイするじゃないですか。そういうかんじで、機材を配置してます。

あと、これまでの焙煎や抽出ってすごく感覚的な技だったんですけど、今はデジタルで管理されていて。感覚プラス、それを可視化するっていうのが重要になってきてるんです。温度変化や焙煎時間をグラフで可視化して再現しやすくなっていて。このアプリ(下写真)とかかっこよくないですか? こういうのを僕はDTMソフトウェアの「Pro Tools」とかと勝手に結びつけてるんですよね(笑)。

豆の重さや焙煎の秒数にもこだわりを持って、どういう見せ方をするかって、ある種バンドのようなものの作り方だなって僕はすごく感じてるんです。だから、ミュージシャンの話を聞いていて、ギターやエフェクターを変えるとか、音作りに通じることがあるなって思います」


多くのミューシャンやアーティストがここを訪れるのも、彼らのクリエイティビティの源流にある姿勢が、ABOUT LIFE COFFE BREWERSのそれとつながっているからかもしれない。「スペシャルティコーヒー」の広がり方についても、ある種ミュージシャン的な思想に近いものがある。

「スペシャルティコーヒーってまだまだ認知度が低いんです。もっとキャッチーなものにしなきゃいけないし、知られる努力をしなきゃいけない。『これが俺のやり方だ!』って職人的にコーヒーを淹れるのもすごく憧れなんですけど、それをやるにはまだ認知されてなさすぎるので、まずは広がりを持たせないと。

なぜかコーヒー好きな人って音楽好きな人も多くて。そういう人たちに、音楽やアートに触れた時みたいな感動を、コーヒーでも感じてもらえたらいいなっていうのは、僕個人がずっと持っているコンセプトです」


カルチャーの発信地である渋谷の一角。とてつもない速度で変化していく渋谷で、「変化が続くなかで、変わらないでいること、地道に美味しいコーヒーを作っていくことを一番大事にしなきゃいけない」と神戸は語る。

「今、コーヒーを『Beautiful』って表現する人が増えてきているんです。そう言ってもらえるような美しいものを作り続けたいです」


TEXT: Aiko Iijima
PHOTO: Shun Aihara

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