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喫茶クロカワから知る、エッセンシャルなお店づくり

ただシンプルに、本質を追求する珈琲専門店

喫茶店文化の根付く名古屋のなかでも新旧のカフェが立ち並ぶエリア、鶴舞。その街でオープン6年目を迎える喫茶クロカワは、丁寧に淹れた自家焙煎のコーヒーを提供する、一際、気持ちのいいお店。アントニン・レーモンドの意匠を受け継いだ店内には十分な余白があり、高い天窓から光が差し込むのが心地よい。日頃から珈琲を嗜む家庭に育ち、世界中を旅しながら自身のエッセンシャルな体験を積んで来た店主、黒川さんならではの感性が行き届いたスペースだ。ローカルの喫茶店文化や昨今のサードウェーブブームにとらわれず、温かくも洗練されたお店で自家焙煎の一杯を提供し続ける黒川さんにお話を伺った。


――元々は会社員だったそうですね。珈琲専門店を始められたきっかけを教えてください。

30代前半のアフリカ旅行が一つの契機です。当時はただただ忙しい日々のなかで、もっと自然体な暮らしを求めていました。そんなことを思うなかで、エチオピアに訪れてコーヒーと共に過ごした日々には大きなインスピレーションを得ました。アフリカを南から北までバックパックで縦断した時、最後にはコーヒー発祥の地とも呼ばれるエチオピアに辿りつきました。街ではバルのようなお店でエスプレッソが飲めますし、家庭でも自分たち煎った豆で「コーヒーセレモニー」という儀式を行い来客に振る舞っていたんです。


――「コーヒーセレモニー」を体験されたんですね。

はい。偶然、仲良くなったエチオピア人の家を訪ねた際、お母さんがお香を焚きながらコーヒーを淹れてもてなしてくださいました。たった一杯のコーヒーに意味を持たせ、その人の幸せを願う。そんな時間が日常に当たり前にあることの素晴らしさを知り、感慨深かったですね。僕にとってとても大切な経験であり、コーヒーに向き合うきっかけになった出来事だと振り返っています。


――帰国後、一念発起してお店をオープンされたんですか?

いえいえ、初めからお店をオープンしようと段取っていたわけではありません。まず旅先の写真を展示しながら、現地で買ってきたお豆でエスプレッソを淹れて泡立てたミルクを注いだマキアートを提供したのが始まりでした。1杯100円です。そんな機会があるうちに、もっと美味しいコーヒーができるはず…と凝りだしてコーノさんのコーノ式焙煎塾に通うようになりました。焙煎のいろはを教えていただき、それ以降は出張販売で出店しながら試行錯誤してきたところです。
 

――珈琲のお話もお伺いしたいと思います。一口いただきましたが甘みがあって飲みやすい。毎日飲みたいような味です。

召し上がっていただいたものはチェリーの風味が強く残っていて、フルーティーだけれど酸味はほとんどない。美味しいですよね。
実は焙煎の前のお豆選びから、甘みがあるかどうかを基準にしています。ナチュラル精選で精製されたお豆はコーヒー果肉(チェリー)がついている時間が長いためフルーティな風味が豆に移りやすいんです。それを、コーノさんの焙煎塾でも使っていたフジローヤルの焙煎機でん焙煎しています。


――ちなみに焙煎機の横に大量のメモ帳がありますね…。丁寧にびっしりとか書き込まれていますが、これは何でしょう?

恥ずかしいですね(笑)。毎回、焙煎機に豆を投入する時の温度とあげた時間を記録しています。データをしっかりとって、味を安定させることが大切ですから。

――なるほど、きっと試行錯誤があったからこその味なんですね。ちなみに影響を受けたお店はありますか?

名古屋のカジタさんにペギーさん、岐阜のミルさん、福岡の美美さん、岡山にある折り鶴さん、それに金沢にある橘珈琲店さん…挙げきれませんね(笑)。あとは、橘コーヒーさんの豆のセレクションはとっても個性的で。癖のあるナチュラル精製のお豆を多数取り扱われています。衝撃的な豆との出会いもあり、自分の好みの味の輪郭が見えるようになりました。その時の味の記憶は鮮明に残っていますよ。


――最後になりますが、このお店にはコーヒーを通した無言のコミュニケーションがあるように感じるのは、本質的なところに集中していらっしゃるからなんでしょうね。

少し”場”の話もさせていただくと、この建物は南山大学の設計もしたアントニン・レーモンドが設立した事務所によるもの。ですから僕の中では学校のようなイメージが強いです。そこで僕はコーヒー担当の人(笑)であり、お客様は誰もが自由にお茶を喫される。雑多というよりはある種、律されている場でもある。そうありたい思いで、お客さまと直接的に話すことは重視していませんでした。これを無言のコミュニケーションととっていただいたなら、おっしゃる通りかもしれませんね。

—今後も、みんなの居場所であってくださると期待しています。

ありがとうございます。いらっしゃっていただいたら色々と尋ねていただくのも、とても有難く思っていますよ。様々な方の声を聞けることは嬉しい。もちろん僕より一枚も二枚も上手のお客様もいらっしゃいますから、良い反応だけではなくともまだまだ勉強して行きたいところです。誰かの新しいコーヒーを選ぶ機会になれば本望ですし、焙煎って一度始めると底なしだからやめられない。日々、精進あるのみだなと思っています。



喫茶クロカワ
2014年に、名古屋の鶴舞にオープン。1960年築のアントニン・レーモンド設計事務所が設計した建物をリノベーションした店内は店主が思う必要最低限の要素で構成され、洗練されながらも温かみのある佇まい。そんな気持ちいい空間で提供されるのは自家焙煎によるコーヒーで、名古屋の喫茶文化や昨今のサードウェーブブームにとらわれず、丁寧に淹れた一杯でお客様とコミュニケーションをとる。

Interview: Ririko Sasabuchi
Text: Takako Nagai [CATALDESIGN]
Photo: Eisuke Asaoka

Location:
喫茶クロカワ
名古屋市中区千代田5丁目8-27
http://cafekurokawa.com/index.html

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