search search

チャリンコーヒーという名のコミュニケーション

休日になると、その男はマットブラック&縦長の自転車に必要最低限の荷物を乗せ、ゆっくりとペダルを漕ぎだし、街へと繰り出す。行き先はバラバラ、自身の興味と繋がりのみをモチベーションに、訪れた先で、会話とともにコーヒーをサーブする――。

Tommy(トミー)と呼ばれるその男は、普段はメッセンジャー(自転車便)として生計を立てている。10年以上の経験を持つベテラン・プレイヤーは、その業界では一目置かれる存在。また、「バイクポロ」と呼ばれる自転車に乗りながらマレットというスティックでボールを操り、ゴールを奪い合うスポーツにおける日本の第一人者としても知られる。

メッセンジャーであり、バイクポロプレイヤー。そんなTommyが、数年前からライフワークとして始めたのが「チャリンコーヒー」だ。

「チャリンコーヒーは、コーヒー屋さんではなくて活動です。僕にとってコーヒーというのはキッカケに過ぎなくて、そこで生まれるやり取りだったり、出会いだったり、コミュニケーションを大切にしています。やる場所も人との縁や、そこでやる意義を重視しています」


チャリンコーヒーで使っている自転車は、荷台が大きく作られたデンマーク製の「Omnium」というカーゴバイク。これは尊敬するメッセンジャーの先輩から譲り受けたもので、乗り心地がメッセンジャー業務で使っている自転車からかけ離れないところが魅力だという。

「このカーゴバイクは、道具を積んで運ぶだけでなく、自転車自体が移動先で店になるような形で使っています。チャリンコーヒーでの持ち物は、ハンドドリップでコーヒーを入れる道具、ミル、サーバー、ケトル、ドリッパー、お湯を沸かすためのジェットボイル、サーブするためのカップ類や備品を入れるケースなど。それらを軍モノとかメッセンジャーバッグ、アウトドアグッズなどを駆使してまとめています」

道具に関しては、“こだわっても固執しない”というのがTommyのポリシー。とはいえ、理にかなったもの、自分の美意識や価値観に沿うものをジャンルレスに選んでいる。あと言うとすれば、高級過ぎないもの。メッセンジャーは、いい意味で道具を消耗品と捉えている。


そもそも、Tommyが本格的にコーヒーへ興味を持ったのは、コーヒーショップで働く自転車繋がりの友人に、ケータリングの手伝いを頼まれたのがキッカケ。最初は慣れないことも多かったそうだが、現場をこなすうちに、次第にコーヒーへの興味が沸くようになったという。さらに、エコであり身軽な自転車というツールは、コーヒーのケータリングにはぴったりだった。その後、チャリンコーヒーという絶妙なネーミングも決まり、彼の活動はスタートした。

現在、チャリンコーヒーで提供しているコーヒーは、その友人が働くコーヒーショップのオリジナルブレンド豆を使用している。スペシャリティコーヒーと呼ばれる良質な豆で、グアテマラ×マンデリンのブレンド、煎りは深めがポイントだ。

「豆と淹れ方で、苦みの中にもほどよい甘みを感じられて、後味はすっきり。毎日飲みたくなるようなコーヒーを目指しています」

ホットとアイスのどちらも可能で、黒糖を入れた甘めのものから、ジャックダニエルで割ったオトナ向けのものまで、その時に応じて提供。また、焼き菓子などの軽食を用意していることも。それらも、自らと繋がりがある人が作ったものなのが、チャリンコーヒーらしい。


口コミで始まったチャリンコーヒーだが、徐々に洗練されていったコーヒーの味と、Tommyのフットワークの軽さからその評判が広まり、今では自転車関連のイベントはもちろん、アパレルショップや本屋、展示会にワークショップ、保育園のイベントまで、さまざまなジャンル&人から声がかかるまでになった。

「考えて、行動して、実体験として感じて、また考える……その繰り返し。現時点でも何かに辿り着いたという感覚はなくて、今はこんな感じってぐらいに思ってる。こだわるっていうのは、何かに対して“考える”っていうこと。常に考える事によって、ある事柄に向き合ったり、突破口が見えたり、アイデアが生まれたりするキッカケになっていると思います」

少しずつ名が広まった今でも、チャリンコーヒーのウェブサイトやソーシャルページは存在しない。それもチャリンコーヒーをコミュニケーションとするTommyのスタイル。もしこの記事を読んで興味を持った方は、Facebookで富田寛、もしくはInstagramで#チャリンコーヒーを検索してみてほしい。そこから連絡を取り、彼の興味を刺激し、ご縁があれば……次の休日、あなたのもとにチャリンコーヒーが訪れているかもしれない。

TEXT:ラスカル(NaNo.works
PHOTO:岡本麻衣

SHARE

}