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とある離島にCORAL COFFEEができるまで

東京から遠く離れた長崎県の五島列島にある福江島に移り住み、「CORAL COFFEE」というコーヒースタンドをオープンした大島健太さん。今年9月には青山の国連大学前で開催されたTOKYO COFFEE FESTIVALにも出店、こだわりの生き方を本誌『KODE』に寄稿いただきました。


はじめまして!

私は長崎県の五島列島にある人口4万人にも満たない福江島で、「CORAL COFFEE」というちいさなコーヒースタンドを運営しています。2017年の8月にオープンしたばかりですが、同年9月には青山国連大学前で開催されたTOKYO COFFEE FESTIVALにも出店させていただきました。

もともと私は神奈川県出身で、東京で働いていました。

そんな私がなぜ長崎県の離島でコーヒースタンドを? と思うかもしれません。今回はその経緯を書かせていただきたいと思います。


私設図書館の館長として移住

福江島に来たのは2016年の9月でした。

もともとは福江島の富江町にある、「さんごさん」という築80年の古民家を改装した私設図書館の館長を務めるために移住をしました。

さんごさんは、東京で暮らしているコピーライターの鳥巣智行さんとアートディレクターの大来優さんが発起人となって、建築家やジュエリーデザイナーなど様々な人たちが参加している地域プロジェクトです。「さんごさん」というちょっと変わった名前は、もともと富江が、過去に珊瑚で栄えていたまちという歴史に由来しています。

運営を開始した当時、さんごさんはちょうど館長を探していて、もともと発起人のふたりと知り合いだった私に、館長のお誘いがやってきたというわけです。

そのころ私は無職でした。前職を辞めて、貯金は海外への留学や旅行で使い果たし、そろそろ次の仕事を探さなければと思っていたころです。

館長の対価として、金銭的な報酬はない代わりに、住む場所(さんごさん)の家賃と光熱費、自家用車の利用は無料。あくまで館長としての仕事がない時間に、自分で仕事をつくり自活してほしい、という条件でした。

私はそれまで五島列島はおろか、九州地方にも行ったことがありませんでした。もちろん知り合いなんてひとりもいません。私はさんざん迷った挙句、とりあえず2ヶ月間だけという約束で、最終的にその誘いに乗っかってみました。当面の生活費に充てるため積み立てていた保険を解約してまとまったお金を作り、さんごさんの館長をすることにしたのです。

さんごさんは漫画家やコピーライター、バスガイドさんから裏に住むおじいちゃんまで、色々な人の「人生の3冊」を収蔵している私設図書館です。

予想のつかない人生を求めて

いまこうして経緯を振り返りながら文章を書いていて、よくそんな条件で九州の離島に来たもんだと、自分でも驚いています(笑)。それほどまでに当時の自分は関東での暮らしに限界を感じていたのだと思います。

実はさんごさんの館長になるかどうか考えている時も、いくつかの会社に再就職のために履歴書を提出をしていました。当時の私はすでに34才。前職を退職をしてから1年以上が経っており、35才の誕生日が目前に控えていました。

希望の職種でなければ再就職できたかもしれません。しかし、そうした人生の先に明るい未来を想像することは難しいように思いました。自分を成長させるために仕事を辞めたはずなのに、お金のためになんとなく東京でまた再就職をしてしまったら、自分自身を裏切ってしまうような気がしたのです。

ならば、どうなるかわからないけれども、未知の世界に飛び込むことも悪くないのではないだろうか?自分の人生を自分で決めるよりも、もしかしたら他者に勧められた人生のほうがうまくいくのではないだろうか?移住や島暮らしに興味がない自分にとっては、この機会を逃したら離島で暮らすチャンスなんて人生のなかで二度と訪れないはず。そういうことを延々と考え続け、私はさんごさんの館長になることを決めたのです。

珊瑚をイメージした真っ赤なスリーブ。五島列島の海と一緒に撮影したときに映えるようにデザインしました。

お金より経験を選ぶ

そうして私設図書館「さんごさん」を運営していくうちに、施設の一角を改装してコーヒースタンドを作らないか?という話がもちあがりました。近所においしいコーヒーを飲める場所はなく、それならば自分たちで作ってしまおうということです。

ただ、コーヒースタンドを作るにあたっては、私が運営して収益をすべて得ることができる代わりに、改装に必要な経費は私が負担するという条件です。

話し合う中で最終的には改装費も負担することなく、店のロゴやパッケージもさんごさんのチームメンバーがデザインしてくれることになりましたが、器具、営業許可の取得などにも費用がかかってしまいます。2ヶ月間だけ館長をするつもりがすでに半年ほど経過しており、保険を解約して作ったお金もかなり減っていました。そうすると自分のお金だけでは足りないので、どこかしらから借金をする必要があります。

ここでも散々迷いました。

富江は若い人が少ない地域。平日の昼間に出歩いているのはお年寄りばかりで、さらに日曜日は近隣の店々も閉まっており、天気が悪い日は片手で数えられるくらいしか目の前の道路を歩かない、そんな場所なのです。

しかも、周囲からは聞こえてくるのは「コーヒーに出せるのは200円まで」という声。当然都会と比べれば平均所得は低いので、初期投資が回収できるとは到底思えませんでした。ですので、面白そうだなとは思いつつも一度は断りました。

でも、さんごさんの建物の前で、コーヒーを飲みながら地元の人や旅行者が談笑する光景を想像したら、やらないわけにはいかない気分が高まってきました。たとえ失敗して初期投資が回収できなくても、数十万円、せいぜい百万円くらいの借金なら、実家で暮らしながら東京で1年も働けばどうにかなる金額です。

そうして最終的にはコーヒースタンドを作ることにしました。

そもそも、コーヒースタンドを運営するなんて、東京だったら10倍の予算がかかるところを、周囲の人々の手助けもあって実現できるチャンスがいきなり訪れたのです。たとえビジネスとして成立しなかったとしても、それは人生のなかで大きな経験になります。経験を買う。そう考えればなにも不安はないことに気がつきました。

お仕事で福江島を訪れた写真家の濱田英明さんが撮影してくれた1枚。東京で働いていたら出会えなかった方々との出会いは私の人生の財産です。

未経験からコーヒースタンドのオープンに向けて

ここまで書いておきながら、実は数ヶ月前まで自分はコーヒーについてはほとんど素人同然でした。

もちろんコーヒーは日常的に飲んでいたものの、自宅ではスーパーマーケットで買ったコーヒー粉を全自動のコーヒーメーカーで淹れて飲んでいただけです。コーヒーの味の違いなんて気にしたことがなかったので、コンビニやチェーン店の安いコーヒーでじゅうぶん満足していました。

なので「近頃は浅煎りが流行っている」なんて言われても理解できませんでしたし、実際に飲んでみても、よくわかりませんでした。

さすがにコーヒー屋を名乗ろうとしているのにそれではまずいと思い、さんごさんの一角をコーヒースタンドに改装中の1ヶ月間は実家に戻り、小さな焙煎機を買ってローストの研究しながら、都内のコーヒー屋さんを飲み歩き、セミナーにも参加して焙煎やドリップの技術、コーヒーの味の違いについて勉強しました。

「コーヒーが大好きで将来カフェを開きたいんです」という人たちに混ざって、「おれはもう来月からコーヒースタンドを運営しなきゃならないんだ!」と思いながら必死でしたね。

焙煎から自分でやることにしたのは、利益率を上げるためでした。どこか有名なロースターから美味しい豆を仕入れれば楽にコーヒースタンドを始められたと思うのですが、それだとまったく利益がでません。なるべく低価格で美味しいコーヒーを提供するには焙煎から始める必要があったのです。

しかし、当然のことながら最初はまったく上手に焙煎ができませんでした。当初は焙煎したコーヒー豆を捨てる日々で、心底うんざりしていました。焙煎を教えてくれる人なんて身近に誰もいなかったので、インターネットで調べながら試行錯誤の連続です。そのときはコーヒースタンドをやるなんて言った自分を呪いながら焙煎してました(笑)。

当初は失敗続きだった焙煎も、最近はだいぶ慣れてきました。もう少し大きい焙煎機を導入することが現在の目標です。

ドリップにしても、お店や資料によって言ってることがバラバラで、何を信じていいのかわからなくなりました。コーヒーを淹れる人が100人いれば100通りのやり方があるのがコーヒーの世界です。そうして勉強してくほどにコーヒーの世界の奥深さを知ることになり、勉強をしていく中で出会ったコーヒーに取り憑かれたを人々を目の当たりにするたび、「これはすごい世界に足を突っ込んでしまったぞ」と若干後悔もしましたね(笑)。

それは冗談ですが、本気でコーヒーを研究している人たちの熱意は、私が大学時代に勉強していた美術の世界にも近いものがあり、シンパシーを感じました。

そうして工事も完了し、今年の8月、さんごさんの一角にCORAL COFFEEが開店しました。こちらも珊瑚(CORAL)に由来した名前です。テイクアウト専門の、3畳程度のとても小さなお店です。

9月末に青山国連大学前で行われたTOKYO COFFEE FESTIVALでの一コマ。左からさんごさん発起人の鳥巣智行さん、建築家でノウサクジュンペイアーキテクツ代表の能作純平さん、筆者、ノウサクジュンペイアーキテクツのスタッフで「さんごさん」「CORALCOFFEE」の施工を現地で担当した石飛亮さん。五島をイメージした3種類のコーヒー豆を販売しました。

CORAL COFFEEの現在とこれから

現在オープンしてから3ヶ月ほどが経ち、先月はTOKYO COFFEE FESTIVALへ出店をして、用意した大量のコーヒー豆を完売させることができました(なんでオープン1ヶ月目にして私たちが参加できたのかというお話はまたいつかの機会に)。

早々に大舞台での経験も済ませ、焙煎やドリップにもだいぶ慣れてきたとはいえ、運営のほうはまだまだ安定しているとはいえません。現在、CORAL COFFEEは週末のみの営業で、平日はアルバイトをして運営費と生活費に充てています。

不規則な営業時間にもかかわらず、ふらっと立ち寄ってくれる方や、車でわざわざ通ってくれる方もいます。焙煎した豆を買ってくれる近所の方も出てきましたし、近隣のイベントに出張コーヒースタンドとして呼んでいただいたこともありました。

SNSを通じて島外からの旅行者や、外国の方も立ち寄ってくれることがありますね。一杯のコーヒーが生み出すコミュニケーションの力を感じています。

先日、施設内でハンドドリップ講座を行ったところ、すぐに予約がいっぱいになり、今後の発展性に手応えを感じています。なるべく早めに大きな焙煎機を導入して、もっともっと五島列島にコーヒー文化を広めていきたいですね。

コーヒーワークショップの様子。美味しいコーヒーを飲みたいと思っている人は島にも多いことを認識しました。

新しいことを始めようとする時には常に緊張とプレッシャーでいまだに逃げ出したくなりますが、それを乗り越えたときの開放感と、一歩ずつ自分が成長していく感覚は楽しいですね。

東京で働いていた時は自分の生活を守るために思い切った行動にでることができませんでしたが、こちらに来てからは「どうしたら人生が面白くなりそうか?」ということを念頭に置いて行動するようになりました。だって、一度きりの人生ですから。

それでは「さんごさん」、そして「CORAL COFFEE」で皆様とお会いし、一緒にコーヒーを飲みながらお話できる日を楽しみにしております!

スペインから遊びに来てくれたインスタグラマーのアレハンドラ(@thehangingplants)とロレーナ(@nasualua)。翌月にはこのふたりのインスタグラムを通じてスペイン人のカップルがさんごさんとCORAL COFFEEに遊びに来てくれました。五島列島には素晴らしい自然が広がっています。みなさんもぜひ遊びに来てください!

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