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ケンゴマツモトが語る、音楽と酒の蜜月

今の日本で最も美しいロックンロールを鳴らすバンドといえば、THE NOVEMBERSをおいて他にないだろう。フィードバックノイズをロックンロールのフォーマットにデザインする、そのサウンドの中枢を担うのが、ギタリストであるケンゴマツモト。孤独を愛し、書物と酒に耽る彼は、行きつけのバーでどのように過ごしているのだろうか?


行きつけのバーは、下北沢の〈スワンプファミリーモンスター〉


下北沢の駅からほど近い商店街。その一角にある〈スワンプファミリーモンスター〉は、THE NOVEMBERSのギタリスト、ケンゴマツモトが行きつけにしているミュージックバーだ。入口を入ると、薄暗い店内には壁を埋め尽くすほどの、大量のアナログレコードとCDが飾られている。ケンゴはいつも、長いカウンターの奥から二番目の席に腰を落ち着け、タバコを燻らせながら流れる音楽に身を委ねている。

THE NOVEMBERSの新作は、必ずここで聴く


「THE NOVEMBERSの新作が完成すると、スタジオから必ずこのバーに立ち寄るんです」とケンゴ。出来立てホヤホヤの音源を、ここのスピーカーで鳴らすためだ。

「マスターや他の客に悪いなと思いつつ、大抵3回はアルバムを聴きます。1回目は楽曲を、2回目はメンバーを、そして最後に自分のギターを散々褒めて、気が済んだところで帰る(笑)。ここのサウンドシステムがすごく良いとか、そういうわけじゃないんだけど、俺にとってはこれが儀式というか、打ち上げみたいなもんなんですよね。普段も俺、午前中から仕事を始めて午後には終え、開店と同時にここにきていて、そこで一旦自分をリセットするというか、“ようやく仕事を終えた!”と思える、ものすごく大事な時間なんです

ミュージシャンにとっては、命と同じくらい大切な自分の作品。それを解き放つ最初の場所として、ケンゴマツモトが〈スワンプファミリーモンスター〉を選んだのは、いったい何故だろうか。

「最初に来たのは10年くらい前だったかな。ある日プライベートで嫌なことがあって、『知っている奴がいないところで飲みたい』と思って近所をブラついていたら、ここの看板が目について。店名も音楽のジャンル(スワンプ)をもじっているし、きっと音楽好きのマスターがやっているに違いないと思ったんです。実際、たくさんのいい音楽を教えてもらいました。今かかっているジョー・ヘンリーもそう」

当時、20代半ばに差し掛かった頃のケンゴは、バー通いもぼちぼち始めていたという。友人とワイワイ賑やかに飲むより、マスターとマンツーマンと話させるような店に行って、1人でじっくりと飲むほうが当時から性に合っているそうだ。

「若い頃は背伸びしたかったんでしょうね。それに、こういうところに来ると、大人と知り合いになれるじゃないですか。それが楽しかったのかもしれない。飲む酒は決まっていて、普段はバーボンウィスキー『EVAN WILLIAMS』の12年モノを頼んでいます。手っ取り早く、効くヤツが好きなんですよ(笑)。今日はあいにくきれていたので、『WILD TURKEY』の8年モノを飲んでいます」

子供の頃はローリング・ストーンズが大好きだったというケンゴ。大人になってからも、キース・リチャーズ(ストーンズのギタリスト)のトレードマークだったジャックダニエルとマルボロを、美味くもないのに無理して体に入れているうちに、気がついたら好きになっていた。

「酒の飲み方を教えてくれたのは、俺と20くらい歳が離れた母方の叔父なんですよ。小学校の教員なんですけどね(笑)。大の音楽好きで、忌野清志郎やローリング・ストーンズ、エリック・クラプトンとか、クラシックロックの魅力も教えてくれた。未だに仲良くしていて、実家の広島でツアーがあると必ず駆けつけてくれるんです」

ポストパンクやシューゲイザー、オルタナティヴ・ロックに影響を受けたサウンドを鳴らす、THE NOVEMBERSのギタリストが、いわゆるクラシックロックをルーツとしているのは意外といえば意外だが、不敵な笑みを浮かべながらギターをかき鳴らし、破綻一歩手前のギリギリのバランスで成り立つような彼の「孤高」のプレイスタイルは、サウンドというよりもその生き方から滲み出ているものなのだ。

「酔っぱらうっていわば“命を転がす”行為だと思うんですよ。危ういところまで連れて行ってくれるというか。キースはもちろん、ジョー・ヘンリーやトム・ウェイツ、作家だとチャールズ・ブコウスキーやヘミングウェイに憧れるのも、彼らが酒飲みで、命を転がしながら作品を生み出しているからだと思うんです」

若い頃は毎晩のようにウィスキーを1瓶飲み干し、十二指腸に穴を開けたこともある。「誰かに認められたくて、それでも思うように成果を出せずにいる自分に苛ついていた」という彼。

「THE NOVEMBERSの初期のライヴはムチャクチャでしたよ。ステージでギターをぶっ壊したりしてましたからね。幼稚な破壊衝動を表現に結びつけて、自己正当化していた。今考えると恥ずかしい話ですよね。最近になって、ようやく自分たちの音楽に向き合えるようになったのは、ギターをぶっ壊さなくても破壊衝動を作品に刻みつけられるくらい、自分のプレイに自信がついてきたからなんでしょうね」

自らの作品を真っ先に鳴らす場所であり、酒の嗜み方、音楽の聞き方を教わり、ミュージシャンとして成長してきた場所でもある〈スワンプファミリーモンスター〉。ここは、ケンゴマツモトにとって聖域と言っても過言ではないだろう。


TEXT: Takanori Kuroda
PHOTO:Shun Aihara

ケンゴマツモト (THE NOVEMBERS)

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