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“お好みジョッキー”が回すロンドンのお好み焼き屋

広島風お好み焼きは、広島県内に約1600の店舗があるほど広島県民に愛されるソウルフードだ。なんと、地球の裏側の街ロンドンに広島の味を堪能できるレストランがある。

海外のレストランで出される日本食はどうしてもまがい物感が拭えないが、筆者が食した「松風堂」のお好み焼きは忠実に日本の味を再現していて驚かされた。焦げだ小麦の香ばしい匂い、甘みを帯びてしっとりとしたキャベツ、間に挟まれたもっちりとした焼きそば、そしてすべてに絡む甘辛いお好みソース。ロンドンに居ながらも口の中だけ広島に帰国した気分になれる心温まる逸品だ。


キャベッジ・ディガーの辿り着いた逸品

御存知の通り、お好み焼きの大半を占める具材はキャベツ。ロンドンで手に入るキャベツの大半は甘みが少なく、なかなか味を忠実に再現できない。食材の違う異国の地で研究を重ね、甘みのあるトルコ産のキャベツを発見した。当初さまざまな野菜のおろし売り業者を渡り歩いても希望のキャベツは見つからず、諦めていた所で自宅から徒歩3分のトルコ人経営の八百屋で出会ったという。まさに灯台下暗し。ただ、手に入れたトルコ産は日本産に比べて硬い。そのためできる限り細かく千切りにすることで事なきを得たという。味の秘密はそれだけでなく、お好みソースはコクのある甘さが特徴のまろやかな地元の企業が作る「オタフクソース」を輸入しているという、まさしく本格派だ。ちなみに「広島焼き」ではなく、正式には「広島風お好み焼き」なので、注文の際は間違えないようにしてほしい。

Street Food Series - Sho Foo Doh (Okonomiyaki) from Karen Lobban on Vimeo.

もともと松風堂はハックニーのチャッツワースロードで行なわれるマーケットのポップアップショップとして、2011年から裸一貫同然の状態で始まった。お好み焼きがどんな食べ物なのかわからないイギリス人に向けて「ベジタブルジャパニーズパンケーキ」と称して地元民に紹介。地域コミュニティに溶け込みながら、現在では店舗を借りるまでに定着した。それもあってイギリスの数多くのメディアで紹介されている。


松風堂がオープンするのは夕方から深夜まで。約20席ほどの店内には巨大な鉄板(ホットプレート)があり、10個以上のお好み焼きを同時進行で焼き上げる。夜になれば終業後の地元民たちが集まり、アルコールやツマミとともにお好み焼きを頬張りながら賑わう。店舗の運営以外に課外活動として、近隣のストリートのマーケットが開催すれば参加したり、大阪に10年在住した経験のあるイギリス人が作った大阪風お好み焼きと広島風お好み焼きで勝負をする催しを行うなど文化的な交流にも参加している。そしてこの店の魅力はそれだけではない。


ターンテーブルからホットプレートに

松風堂の店長は1995年から在英する広島出身のTanga Fumio氏。前職はHMV LONDONで働いていたという音楽通。日本人がロンドンの大手のレコード屋で働くというのもなかなか稀なこと。そしてDJとしても活動し、イタロディスコのレジェンドDaniele Baldelliと共演するなど音楽にうるさいイギリス人を楽しませるほどの腕前えを持つ。お好み焼きを乗せた皿を回す前は、レコードを回して生計を立てていたのだ。



DJとしての活躍の場はロンドンだけでない。約10年前にダッチ・エレクトロDJのLegoweltと一緒に来日して、都内でもDJプレイを披露。そこから都内のローカル・シーンのDJたちと親睦を深め、筆者とも知り合った。ある日、たまり場となっていたシェアハウスで明け方まで飲んでいた際に、泥酔した編集者が言い放った「お前は広島出身だから“お好みジョッキー”になれ!」という一言が、Fumio氏の頭の片隅にこびりついた。そこからロンドンに戻り数年が経ち、渡英前にお好み焼き屋でアルバイトしていた経験も思い出したのもあって、自分のルーツとなる広島風お好み焼きを作ることを思い立ったという。


味と音をひろめるため、南半球に進出

現在、Fumio氏は、オーストラリアのメルボルンに新店舗「Broad Island Shokudo(広島食堂)」(instagram)(Facebook)を立ち上げる準備に奮闘中だ。先月、手始めにポップアップショップを開催すると、地方紙に紹介されるほどの評価を博した。別の国でも通用する味なのだ。年内に出来上がるという新店舗は、クラブに隣接したお好み焼きの店になるという。Fumio氏自身はもともとオーストラリアのDJシーンとも密につながりがあるので、休日はそのクラブでDJプレイも行うそうだ。ゆくゆくは食と音楽の文化が交流する場になるはず。ラーメンが世界的に愛されるようになった次は、イギリス人にも愛されたお好み焼きの出番かもしれない。

TEXT: 高岡謙太郎

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