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ギタープレーヤー田中義人を救ったカレープレーヤー田中義人


ケツメイシ、秦基博、宇多田ヒカルなどと共演する一流ギタリストのもう一つの顔

葉加瀬太郎、森山良子、森山直太朗、スガシカオ、bird…レコーディングやライブに参加した有名アーティストを挙げれば枚挙にいとまがないほど、まさに日本の音楽シーンを支える一流ミュージシャンの一人である田中義人。そんな彼のライフワークとなっているのはカレー作りだ。SpiceDub(@spicedub)という名義でInstagramにあげるカレーの写真は全て手作りで、どれも同じ俯瞰で撮影されている。150を超える様々なカレーがまっすぐにこちら向きに並ぶタイムラインはなかなかの壮観だ。


今回は特別に彼の音楽作業部屋を訪ね、絶品のキーマカレーを作っていただきながら、カレーにまつわる田中義人の知られざるエピソードを聞いた。


—音楽でのキャリアはもちろん長くて様々なアーティストの方と活動されてきましたが、カレー作りのキャリアも実は長かったんですか。

カレーにハマったのは1994年。当時は北海道に住んでいて、札幌スープカレーの文化というのが結構盛り上がってきている時でした。スープカレーがとにかく好きで食べ歩いていました。1997年に上京した時、関東圏にスープカレー屋さんが1軒もなかったんです。それで、見よう見まねですが自分でスープカレーを作り始めたんです。スープカレーにルーを使うという考えが僕にはなくて、そこでいろいろなスパイスを買ってきたりして自分なりに作り続けてたんです。2012年に水野仁輔さんの『はじめてのスパイスカレー』という本と出会いました。これが結構衝撃でしたね。



—ずっと作ってらっしゃるんですね。InstagramではSpiceDubという名義で手作りのカレーの写真をあげてらっしゃいますが、この活動を始めたきっかけを教えてください。

まず端的に話すと、カレー作りは自己満足の域を出ていなかったんです。まだそのころは他人に振る舞うなんていう想いはなかったので。ただ記録的に写真を撮っていたんです。今こういうインスタの文化とかがあるので、ここでひとつ自分のカレープロフィール的にアカウントを持っておくと面白いかなと思って、それまで撮りためていた写真を並べてみたんです。そうしたら思いの外いい感じで、じゃあこれを継続してやっていこうと思ったのが2018年の春ごろでした。



—では1年強くらいになるんですね。このお皿で、さらに俯瞰で撮り始めたのはインスタをなんとなく意識して撮っていたんですか。

まずは自然光が入って絵になる場所がそこだったということと、撮っているうちに定点観測みたいになっちゃって。それこそSpiceDubを始めてちょっとしたころに水野さんともお会いする機会があって、「この定点観測でやるのはすごくいいと思うよ」と言ってフォローをしてもらったんです。それがまた僕の励みになったというか、そこから一気に加速していきました。(水野さんたちが始めた)東京カリ〜番長の存在は昔から知っていたんです。1999年からbirdというシンガーのツアーや、アルバム制作に関わることになるのですが、翌年に僕も作曲に携わったMondo Grosso名義の『LIFE feat. bird』(2000年)がヒットしました。birdのファーストツアーに参加するキッカケを作ってくれたドラマー・パーカッショニストの江川ゲンタさんという方がいらっしゃって。彼が仕切っていたクラブイベントで水野さん達がカレーを振舞っていたのが東京カリ〜番長の起源の一つだとお聞きしていて、カリ〜番長はその当時から「カレーと音楽」ということを考えていらっしゃったようで、僕も違う形でしたがここに来て交わることができたなと嬉しく感じています。



—ミュージシャンでカレーにハマる人多いですよね。それが不思議だなと思ったりして。

音楽と料理ってすごく似ているんです。例えば、タイミングとか、感性とか特にカレーの場合は(調理法や材料などの組み合わせが)無限大じゃないですか。その感じがやっぱり音楽を作っている時の感覚に重なるというか。例えばキックの音はこうしようとか、ハットの音はこうしようとか、じゃあギターはちょっとジャズっぽいやつでとか、そういう音楽制作においてのエレメンツ選びとカレーを調理する事はとても似ていて、具材の選び方とか、火加減のタイミングとかもそうですが、人によって全然違うじゃないですか。どんなにやっても、同じカレーにならないというか、唯一無二のカレーになるし、音楽もカレーもクリエイティブには制限がなく自由であることを改めて実感させてくれる。あと僕の場合は医食同源という側面もありますね。


—2015年にご病気をされて、しばらくギターが弾けない時期があったんですよね。

局所性ジストニアという病気で全く楽器が弾けなくなった時は、寝ても悪夢しか見ないし、起きても「あぁ、ギター弾けないんだ」という現実を受け止めきれない状況で。特に朝起きることが全然できなくて。それで前の日にカレーを仕込んで、そのカレーを楽しみに朝起きていたんです。カレーに救われた部分はすごくでかいですね。ギターが弾けなくなって音楽ができなくなってという中で、カレーを作ることでどこか自分のクリエイティビティみたいなものが満たされる部分があったなと思って。だから、あの時に、自分はもちろんギタリストだけど根っからのクリエイターだなと思いました。
(自身のブログに闘病の模様が克明に描かれている)



—カレーはクリエイティブと言っていいんですかね。

いいと思います。音楽でも多重録音するのをダビングと呼ぶのですが、それをスパイスの多重構造ということにかけて「SpiceDub」というワードが生まれました。可能性は無限大、発想することの自由、唯一無二ということを考えながら、自分の活動としてカレーと音楽の活動が共鳴し合いながら並列で在るというライフスタイルが、病後、僕がやってきたことが間違ってなかったことを実感させてくれています。


田中義人
1999年Monday Michiruのバンド参加をきっかけとしてbirdバンド、2000年には大沢伸一主宰のMondo Grossoに参加しヒット曲『LIFE feat. Bird』の制作にも携わる。ANA沖縄キャンペーンのCMソングとなった同曲は色褪せぬ名曲として高く評価され、今年ANAハワイキャンペーンのCMで再び起用された。また数々のアーティストのレコーディングやツアーなどにも参加しており、中でもケツメイシ『夏の思い出』のギタープレイなど名演の誉れ高い演奏を数多く残している。2013年2月には初リーダーアルバム「THE 12-YEAR EXPERIMENT」、2018年8月には4曲入りEP「Smells Like 44 Spirit」を配信リリース。Spotifyのバイラルチャートでは1位を記録する。

「THE 12-YEAR EXPERIMENT」
Apple Music: https://music.apple.com/jp/album/the-12-year-experiment/1413266683
Spotify: https://open.spotify.com/album/5wIt6jiDNYKhSpeU3tw9Yx?si=4xcz-62cThuss8d53owKqQ

「Smells Like 44 Spirit」
Apple Music: https://music.apple.com/jp/album/smells-like-44-spirit-ep/1414875495
Spotify: https://open.spotify.com/album/5qE9aTR33sJkWSZFS3UkQi?si=Xys5I6TAQiuOuW3h8ZIgQw

Instagram: @spicedub

Produce & Interview: Hiroshi Inada
Text: Yoshiki Tatezaki
Photo: Junko Yoda

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