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サイプレス上野の原点「ガラガラで濃密な現場」

フリースタイル・バトルに出場したかと思えば、ももいろクローバーZの作詞を手掛けるなど、硬軟織り交ぜた活動でいま日本でいちばん忙しいラッパーになっているサイプレス上野。しかし、そんな彼の原点となる風景は、ガラガラの野球場だったりする。

「兄貴が野球が好きだったので小さい頃から球場に連れて行かれてました。ただ、兄貴は、全然、盛り上がってない時代のパ・リーグ至上主義っていうハードコアな男だったので、川崎球場でロッテオリオンズ対南海ホークスっていうめちゃくちゃ地味な試合を観させられたり。当時、川崎球場って言えばガラガラ過ぎて、客が席で流しソーメンやったりすることの方で有名でしたからね。あと、東京ドームに行くとしても、日ハムの試合限定みたいな。ドームと言ったら華やかなイメージだけど、その時はやっぱりまったくひとが入ってない。そこで、日ハムの応援歌を延々歌わされて。〝地獄だな〟って思いながら(笑)」



ー自分たちしか知らなかった閑散とした居場所

また、兄はプロレスのマニアでもあり、上野少年は野球と同様、ガラガラの会場でリングに声援を飛ばしたという。

「他の客は寝てるサラリーマンとか、コーラの1.5ℓをずっとガブ飲みしてるデブとか(笑)。最近は新日本プロレスなんかもいわゆる〝プ女子〟っていうか、女の子のお客さんも増えて明るい雰囲気になってるんですけど、ただ、そうなると、〝居場所がないな〟と思ってしまう自分もいる。ボンクラが多い会場に行くと安心しますね」

そして、考えてみれば、上野がラップを始めた90年代半ばも、彼が出演するようなイベントはガラガラで、アーティストも愛すべきボンクラばかりだった。そういった中で彼は切磋琢磨し、現在の華やかな場所へと辿り着いたのだ。

「そこは、〝オレたちしか知らない世界〟だったんですね。しょうもないなぁと思いつつ、凄いことをやってるという自負もあった。全てはあそこから始まったと思ってます」

どんな文化も、原点は〝ガラガラ〟なのだ。そこは空いているが、濃密なポテンシャルで満たされている。


TEXT: 磯部涼
PHOTO: 寺沢美遊

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