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もっとディープな世界へ。FLAKE RECORDSのセレクトの裏側

高感度なセレクトショップやカフェが並ぶ、大阪・南堀江の静かな一角にあるFLAKE RECORDS。わずか20坪の店内には、世界中よりセレクトされた最新のアナログレコードや、思わず手に取りたくなるような可愛い雑貨が整然と並ぶ。白壁を基調とした店内には、大きな窓から明るい陽光が差し込み、薄暗くて雑然と商品が置かれたマニアックな専門店にありがちな、「入りにくさ」とは無縁の空間がそこには広がっている。

11年前にオープンして以降、ほぼ1人で店を切り盛りしているのは店長の和田貴博。彼がFLAKE RECORDSを、単なる流行りのレコードショップではなく、世界中の音楽ファンやアーティストたちがこぞって足を運ぶ、屈指の情報発信地へと成長させることができたのは何故だろうか。

品揃えは、『フジロックのラインナップくらいの幅広さにしよう』と思った

お店の特徴は、何と言っても四方の壁に飾られたアナログレコードの数々だ。誰もが知るインディ界のカリスマアーティストから、北欧の片隅で活動する無名の新人シンガーソングライターまで、数にしておよそ1万枚。今日も世界中から様々なジャンルのレコードが入荷され、その一枚一枚に和田が丁寧なコメントを書き込んでいく。


「僕が聴いて気に入ったものだけ仕入れてる。なんでも聴くんですよ、ロックでもヒップホップでもテクノでも。しかも、その時々で好きなものも変わってくるし、それがブレてもいいと思ってます。『ブレないようにしよう』とか考えると、辛くなってくるじゃないですか。オープン当初は、『フジロックのラインナップくらいの幅広さにしよう』とは思ったかな。フジロックって、マイナーからメジャーまで様々なアーティストが出るけど、なんとなく『フジロックっぽい色』があるじゃないですか」

そう話してくれた和田。今は海外のレーベルでもネットで試聴してから発注をかけることが出来るようになったが、ひと昔前はファックスで送られてきた商品リストを見て、ピンときたらまず1枚購入し、聴いて良かったらまとめて仕入れるという手間暇のかかる方法をとっていたという。

「ピンとくるのはどんな時?」と尋ねると、「何となくだったり、タイトルがカッコ良かったり、色々です」と和田。もちろん単なる当てずっぽうではなく、毎日大量の音楽を浴びるように聴き、培ってきた「嗅覚」によって、ファックス1枚の中にある情報を嗅ぎ分けてきたのだろう。そして、その「嗅覚」を信頼する世界中の音楽ファンが、この店に集まってくるのだ。

もっとディープな世界へ引きずりこむための、最初の場所でありたい

とはいえ、大量のレコードの中から“自分だけのお気に入りの1枚”を見つけるのは至難の技。そこで和田は、初心者リスナーでも安心してレコードが選べるよう様々な工夫を凝らしている。例えば試聴機。今は、iPodなどに全ての収録曲を丸ごと入れて置いておくこともできる時代だが、和田はあえて昔のやり方を貫いている。

「アルバムの中から僕が数曲だけ選んで、それをわざわざCD-Rに焼いて試聴機に入れているんです。それは、『全曲聴きたかったらお金出して買ってね』っていうことじゃなくて。全曲入っていたら、どこから聴いたらいいか分からないじゃないですか。ある程度こちらでオススメをピックアップしてあげたほうが、初心者は探しやすいんです」

手書きのコメントや試聴機、定期的に開催しているインストアライヴなどによって、訪れた人にレコードの聴き方や選び方を指南し、未知なる音楽との思いもしなかったような出会いを提供する。FLAKE RECORDSは、単にお目当ての新譜だけをチェックする場所ではなく、和田のキュレートするフェスのような空間なのだ。


「ここは“入り口”でいいと思っているんです。もっとマニアックなレコード店は他にもたくさんあるし、海外のショップがやっている通販から直で取り寄せている人もいる。そこに対抗しようと思っても勝てないし、もう少しカジュアルに楽しんでもらいたいと思っています。もっとディープな世界へと引きずりこむための、最初の場所でありたいんですよね(笑)」

「このレコードめっちゃええのに、なんでみんな聴けへんの?」というフラストレーション

初心者リスナーが、気軽に楽しめるフェスのような空間。そのための試行錯誤は、これまで何度も試みたという和田。店内ではビールを販売し、呑みながらレコードを選ぶこともできる。トートバッグやTシャツ、帽子などオリジナルグッズも豊富に取り揃えてある。

「前はカウンターを置いて、女性誌なんかも置いてたんですよ。カップルでお店に来て、女の子が退屈そうにしているのがイヤだったので。結局あまり効果がなくて取り下げちゃいましたけどね。グッズを置くようになってから、最近は女の子のお客さんも増えて来ました。ひょっとしたら男よりも多いかもしれない。グッズは利幅がいいので、自社で工場を作ってマーチャンダイジング部門を立ち上げ、バンドマンにも下請けして作ったりしています」


それにしても、和田は何故わざわざ手間暇をかけて、このような場所を作ろうと思ったのだろう。採算度外視した道楽商売などではもちろんないが、おそらくもっと効率のいい運営方法もあったはず。「世界中の、まだ知られていない音楽を紹介したい」という、そんな思いは一体どこからくるのか。

「フラストレーションですね。『このレコードめっちゃええのに、なんでみんな聴けへんの?』っていう。若い頃は自分でレビューサイトを作って、そこで色んな音源を紹介していたし、誰かに何かをオススメするのは好きみたいです。レードに1枚ずつコメントを書き込んでいるのもその延長。別に文章を書くのが好きなわけじゃないんですけどね。ここ何年かはTwitterでも発信していて。そこでも“どうやったら伝わるか?”ばかり考えて、若干キャラ作ってでも書いているところはあります(笑)」


最近は使命感も「多少は芽生えて来た」と明かす和田。「僕のセレクトを信頼してもらい、買っていったお客さんに満足してもらえたら素直に嬉しいし、これからも良いレコードを紹介していかなきゃと思う」と話す、少し照れた彼の顔が印象的だった。

TEXT / PHOTO:Takanori Kuroda

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