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31文字に受けた衝撃―ハルカが語る短歌の魅力

周りの人たちに合わせて蓋をした言葉、自分のために誰かに蓋をさせた言葉。そうして闇に葬られた言葉たちを掘り起こしているかのような、生々しいフレーズの数々は、辛辣でありながら、本来豊かであろうと自分の意思を大切にすることを、肯定してもらっているような優しさもある。そんな言葉の力と独創的なハイブリッドサウンドで新たなポップの扉を開ける2人組バンド、ハルカトミユキ。そのギターヴォーカルであるハルカが持つ、強くもありどこか不思議な表現力の背景には、『現代短歌』の存在があった。



短歌は自分と世界との接点

ハルカが案内してくれたのは、新宿3丁目にたたずむ居酒屋『どん底』。「三島由紀夫さんなど、多くの文化人が愛した場所なんです。料理もおいしいし、プライベートでもよく来ます」という、短歌を語ってもらうにはぴったりの老舗だ。

音楽活動の合間を縫って、本名の福島遥名義で歌集『空中で平泳ぎ』を出すほどに、短歌の世界にはまっていったハルカ。そのきっかけは、「言葉を使う仕事がしたかったから」と入学した立教大学文学部在学時のこと。講義で短歌を詠んだことと、歌人でありエッセイストである穂村弘の作品に出会ったことだった。

「1ページに『五七五七七』のたった31文字。あとはほとんど余白。本のなかにあるその世界は衝撃的でした。穂村さんは、社会に馴染めないことや、周囲の人との感性のズレを抱えながら生きている自分を表現する手段として、短歌を選んだような人。短歌があれば自分と世界との接点ができるみたいな。そこにはどこか共感できる部分もあったし、怖いもの見たさみたいな感覚もありました」



“なかったこと”を言葉にできる短歌の魅力

『したあとの朝日はだるい 自転車に撤去予告の赤紙は揺れ』

穂村弘のエッセイ集『もうおうちへかえりましょう』のなかから、ハルカがもっとも好きだという、岡崎裕美子の歌だ。そのまま解釈すると、自転車で出かけた先で出会った人と意気投合し一緒に歩いてラブホテルへ。ことを終えて朝を迎え、一人で取りに戻った自転車に乗っているときに感じた虚無感、といった感じだろうか。

「まず『したあとの』で『ガーンッ』ってきません? で、下の句の『自転車に~』は、おっしゃるように、ほんとうに見た景色なのかもしれないし、撤去を予告されたのは自分かもしれないし、いろんな捉え方ができておもしろいんです。こういう性的なことって、自分一人のなかの話で、きっと相手にも誰にも言わない。そんなふうに、なかったことにして流れてしまったことを表現できるのが短歌なんだって、思ったんです。って、今こうして話している瞬間にも、テーマと全然関係ないことや、この場に相応しくないようなことが頭に浮かんでくるかもしれない。でも、それらをすべて話していたらこの取材は成立しないわけで。そういうものが自分以外の他の人にもあるんだって」

そんな思いが、「表面的には優等生。先生にはいい顔するし勉強もするんだけど、腹のなかでは大人をナメてたり、誰にも本当のことを言わなかったり。でも、そんな自分が気持ち悪いとも思っていました。凄いヤツを抱えながらもうまく取り繕えちゃう自分への、自己肯定感のなさ」と振り返る、自身の10代の頃と重なったのだという。「『共感』にもいろいろあると思うんですけど、なかったことにしていたことにスポットを当てたい。そこにある意味いちばん深い共感があると思うから。毎日思っていることやよくあることを言われても、私はしっくりこないんです」と自らの表現について話す。



短歌とバンド

「勝手に湧いてくる思いや、無自覚に書いていた歌詞が、短歌の世界に通じていることがわかって、自分の言葉にたいする理解が深まったような気がします。それからは、短歌から歌詞にしたり、意識的に自分一人の部屋で起こっている、誰にも言わないようなことを書いたりするようになりました」

実際に、ハルカトミユキは『虚言者が夜明けを告げる。僕たちが、いつまでも黙っていると思うな。』、『真夜中の言葉は青い毒になり、鈍る世界にヒヤリと刺さる。』、『そんなことどうだっていい、この歌を君が好きだと言ってくれたら。』と、初期のEP3作で、ハルカが詠んだ短歌をタイトルにしている。また、曲単位でも、独特なようで耳なじみの良いテンポ感で繰り出されるスリリングなフレーズの数々と、劇場型オルタナティブサウンドとのマッチングが印象的だ。

ハルカトミユキ - "ニュートンの林檎"


「音楽だと演歌も五七調ですよね。曲が先の場合は難しいこともありますが、詞が先の場合は特に、日本語が持つリズムの心地よさを大切しています」。では、短歌を詠むことと歌詞を書くことをあえて比べたときに、実際はどちらのほうがやりやすいのだろうか。

「歌詞は『長いな』って思うんです。31文字でじゅうぶん。蛇足って言うと語弊がありますけど、歌詞も『1行』が伝わればいいのかなって、そう思って作ることが多いですね」

短歌に影響を受けたハルカの、1行に魂を込めたフレーズの連なりや、母音で区切られる日本語独特の言葉の刻みが、メロディーに乗って音楽になったときにこそ生まれる強さ。そこを少し意識してハルカトミユキの音楽を聴いてみるのも、楽しみ方の一つだ。



TEXT: TAISHI IWAMI
PHOTO: Takuya Furusue

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