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韻シストが一流珈琲マニアから受け継いだ20年のこだわり

1998年の結成以来、大阪を拠点に活動を続ける5人組、韻シスト。彼らが一貫してこだわり続けているのは、「ヒップホップを生のグルーヴで鳴らす」ということである。激動する音楽シーンの中、20年近くも最前線を突っ走りながら、そのスタイルを維持していくのは並大抵のことではなかったはず。もちろん、それ故にファンとの信頼関係を築き上げてきたわけだが、頑なとも言えるこだわりは一体どこからきているのだろうか。


「好き」を追求したら皇室にまで招かれた、今は亡きマスターのコーヒー道

大阪屈指の繁華街、京橋の中心から少し離れた国道沿いにある『珈琲専門店 珈琲道』は、昭和の趣を残したレトロな店構えが特徴だ。一歩中に入ると、壁一面に陳列されたコーヒーに関するコレクションの数々に圧倒される。世界各国のカップ&ソーサーはもちろん、骨董品のような手挽きミル、モダンなデザインのポスターやトイなど、コーヒーに関するあらゆる品々が置かれた店内は、さながらコーヒー博物館のようだ。



「実はここ、うちのマネージャーの実家なんですよ。もう亡くなった彼の父親が、無類のコーヒーマニアで。“コーヒー”と名の付くものなら何でも集めまくっているうちに、こうなったらしいです(笑)。しかも、ここにあるのは“ほんの一部”って言うんだから、常軌を逸してますよね」と、笑いながら話してくれたShyoudog(Bass)。趣味が高じて始めた『珈琲道』の評判は全国に広まり、なんと皇室に招かれコーヒーをお出ししたこともあるというし、マスターが亡くなった際には実際に珈琲博物館ができるほどだったという。

「“好き”を追求するって素晴らしいことですよね。僕ら、ツアーなどで集まる時には大抵ここを集合場所にして、ママにモーニングを作ってもらったり、コーヒーを出してもらったりして。しばらく寛いでから目的地へ出発するっていうのを習慣にしてるんです」(Shyoudog)

コーヒー専門店『珈琲道』は、韻シストにとって「第二の我が家」のような存在。「これ」と決めたことにはとことんこだわり、極めるまで突き進む。そんなマスターの一途で頑なな姿勢は、生演奏のヒップホップにこだわり、「あくまでも拠点は大阪」を貫く韻シストの姿勢にも通じるものがあるのではないだろうか。


自分内ルールを決めて、充実した日々を送る

「“俺にはこれしかない”っていうマスターの気持ちは、おこがましいけど分かる気がします」とBASI (MC)。ラップの研究に余念がなく、常に言葉を探しながら日々を過ごす彼は、はたから見たらクレイジーなほどのマスターのコレクター精神に、強く共感したようだ。

「趣味がなくて、強いて言えばラップが趣味。何か新しい言葉はないか、誰もやったことのない表現方法はないか。気がつけばそんなことばかり考えているんですよね。嫁も呆れているし、自分でもちょっとイカレてるなって思うんですけど、“これを絶対に、死ぬまで続けてやる”と思ってる。韻シストの楽曲の中でも“休止も解散もなし”ってラップしてますけど、それがこだわりって言えばこだわりかな」(BASI)


BASIほどではないにしても、多かれ少なかれ「これだけは貫き通したい」という、自分内ルールはメンバーそれぞれあるようだ。TAKU(Guitar)は「とにかく、サービス精神を忘れないようにしたい」と切り出した。

「昔、ジャミロクワイがものすごく好きで、来日したときは欠かさず観に行っていたんですけど、一番有名な曲“Virtual Insanity”を一度も聴けなかったんですよ。やってくれないから(笑)。レッチリを観に行った時も、ちょうど“Around The World”が大ヒットした直後だったのに、セットリストの中でメチャクチャ中途半端なところに入れてきたりする。“あえて有名曲をやらない” みたいなアーティスト、結構多いじゃないですか。そういうのを見てて、『僕がプロになったら、そんなこと絶対にせえへん』って決めましたね(笑)。みんなの知ってる代表曲をみんなが聴きたいタイミングでガンガンやって、お客さんを笑顔にしたい。それは今も変わってないです」(TAKU)


お互いを信頼し、心からリスペクトすることが長続きのコツ

「僕は“その日1日を絶対に楽しくする”というルールは守るようにしているかな。これは全員でやっている気がします」とShyoudog。例えばツアーの移動中など、単調な時間が続く時でも、面白いことを思いついたら小さなことでもどんどん実行しているそうだ。

「この間も移動中、急に『焼肉が食べたい!』ってなって。そしたら『そこに先輩を呼びつけて会計払わせよう』とか(笑)、『店来た時に何かワナ仕掛けたろう』『じゃあ、こんなドッキリはどう?』みたいな感じで、1日の中のイベントごとがどんどん増えていく(笑)。曲を作っている時も、『イントロで驚かしたろ』『ソロはもっと、こういう風に広げていこう』みたいに、仕掛けをどんどん増やしていって、自分たちでオモロがっているうちに、オモロい曲ができるんですよね」(Shyoudog)

「曲作りって、シビアでストイックな作業でもあるので、そこを楽しく乗り切りたいっていうのもあるのかもしれないですね。『韻シストのチームプレイさえあれば、どんなことでも全部オモロく出来る』という自信があってこそのこだわりなのかなと思います」(TAROW-ONE / Drums)

もちろん、そこにいるメンバー全員が面白がられる空間を作るためには、ちょっとした工夫や心がけも必要だ。サッコン (MC)は言う。

「まず、相手の意見を潰さないことが大事。誰かが“ポーン”とお題を出した時、まずはそれを受け止める。それから、韻シストならそれをどう消化できるか、どうオモロく出来るかをみんなでいつも考える。そのためにはお互いを信頼し、心からリスペクトすることが大切だし、それこそがバンドを長続きさせるコツなのかもしれないですね」

信頼とリスペクト。どこへ行くにもまずここ『珈琲道』を起点とし、仕事を終えたらここに戻って解散する。20年間、そうやって絆を築き上げてきた韻シストの一貫したスタイルの源流はここなのかもしれない。


TEXT : Takanori Kuroda
PHOTO : Banri

韻シスト (IN-SIST)

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