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C.O.S.A.のリリックに影響を与えた2つの小説

愛知・知立出身のラッパーで昨年レーベルSUMMITから、ソロ作品としては2015年にの『Chiryu-Yonkers』以来となる『Girl Queen』をリリースしたC.O.S.A.。もちろんKID FRESINOとのダブルネーム作『Somewhere』や、サニーデイ・サービスのニューアルバム「Popcorn Ballads」にC.O.S.A.はKID FRESINOと共に、曽我部恵一の熱烈なラブコールに応え参加した。

そのハードボイルドな立ち振る舞いと、リリックのストーリー性は、彼のファンだけではなく、ラッパーや音楽関係者たちからも賞賛する声が聞こえてくる。彼がインスピレーションのもとにしているのは、もちろんあまたある国内外のラップ作品や音楽だけではなく、小説であると時にインタビューなどで語られているが、その多くはまだ明らかになっていない。今回、稀代のラッパーC.O.S.A.に影響を受けた小説とリリック制作について語ってもらった。


ーC.O.S.A.さんのリリックを読むと、例えば主観がどんどん変化していったりとか、文学的な視点があります。過去にインタビューでも作品の影響源としてボストン・テランの作品をあげていたりします。そもそも小説はいつから読んでいましたか?

「小学生の時から図書室で偉人の伝記とかはよく読んでいて、あと野球をやっていたのでイチローとか落合とか野球選手の本はいっぱい読んでましたね。小説を初めて読んだのは中一で、その時付き合っていた彼女が小説を読んでいて、『キノの旅』ってラノベですね。それがすごく面白くて、彼女の家の本棚にあるやつを全部読みましたね、それが始まりでした。その小説はファンタジーで、ドラクエみたいで、自分の頭の中でその世界を想像して、絵が浮かんでくるのが面白かったんですよね」

ー12歳くらいからすでにリリックも書いていたということなんですが、読んでいた小説からの影響はありましたか?

「その時はあまりないですね。むしろヒップホップを聴き始めたときから、2Pacとかの歌詞の和訳を読んでいたからリリックはそっちの影響の方が大きいですね」


ーその当時書いていた歌詞はどういったものでしたか?

「それでもストーリーテリングとかはあったっすね。中学生だからそんなにドラマチックなことないから、基本的に『お前ら全員倒してやる』とかそういったものだったり。あとは物語的なストーリーテリングか、あとはラブソング。その3つばかりでしたね」

ーでもその3つは今のC.O.S.A.さんのリリックにも通じますよね。

「そうなんですよね、何にも変わっていないんですよね(笑)。表現がアップデートされ続けているだけで」

ー中学生のときに小説を読み始めて、それから自分でもどんどん読むようになった?

「でも最近は特に読書家って言えるほどは読んでなくて、昔の方が読書量は圧倒的に多かったですね。20歳前後の時間が有り余ってるときに一番読んでました。今は小説以外は読まないかな。本屋に行って面白そうな海外の小説を適当に手にとる感じ。翻訳小説は現実味がないので、そっちの方が好きですね。知ってる街より知らない街が出る方がいい」


ーなるほど。ちなみに今回選んでもらったカズオ・イシグロの『夜想曲集』とボストン・テランの『音もなく少女は』はいつ頃読んだものですか?

「同時期で多分4〜5年前ですね。カズオ・イシグロはこの『夜想曲集』を最初に読んでから、最新刊以外は全部読んでいます。『夜想曲集』は短編集なんですけど、暫く本を読んでなくて、短編集の方が読みやすいかなと思って買ったんです。けど、すごく面白くて。カズオ・イシグロは無駄がないんですよね。派手な展開もないし、淡々としている。主人公の周りの光景を淡々と描写し続けて終わるところが好きですね。ボストン・テランは、カズオ・イシグロと真逆で『ここに水がある』という事実を3行くらい使って過剰に書くんですよ。その真逆な感じが好きです。おれのラップはどちらかというとテランっぽくて、1つのことを表現するのに、周りのことをたくさん描写して書くので。テランを読んでいると『わかる、わかる』ってなるし、カズオ・イシグロを読んでいると勉強になるなという感じですね」


ーEP『Girl Queen』は『音もなく少女は』のサウンドトラックとして制作したという話を伺いました。本から音楽が聞こえてくるようなインスピレーションを受けるんでしょうか?

「読んでる最中はないですけど、『音もなく少女は』はすごく好きだったので10回くらい読んでいて、なんとなく映像が自分の中で浮かぶので、最初は作品をテーマにしたビートテープを出したいなと思っていましたが、たまたまEPになりました」

ー 『音もなく少女は』の原題は『Woman』なんですが、C.O.S.A. さんの『Girl Queen』も、女性が出てくる曲と全く出てこない曲が対照的に並んでますね。

「『音もなく少女は』もゲットーの話がでてきて、主人公は女性でその敵が男なんですよね。『Girl Queen』の“WGD”や”La Haine Pt.2”は男側の視点で描いていて、その世界観は共通してます」

ーごく一般的にヒップホップのリリックは自己表現をするものだと思うんですがC.O.S.A.さんの場合は、自己表現はありつつも様々な視点が入ってきますよね。それはどのように身についたんですか?

「単純に自分の身に起こったことだけを、そのまま歌詞にするだけだともう何も書けなくなってしまうんですよね。そんなに毎日浮き沈みする生活はしてなくて、頻繁に出来事は起こらないから。ただ自分に起こったことを元に、それをうまく表現するにはどうしたらいいのかなというのはいつも考えていて、そこに多少フィクションを盛り込んだりとか、でも曲のきっかけになってるのは全部自分の身に起こったことなんですよね。全くのフィクションは書かないようにしてますね、それだと創作になっちゃうので。でもその出来事自体についてわかるのは当事者と自分だけでいいかなと思っていて、聴いている人がどの部分がリアルか、嘘っぽいかを思うのはみんなの勝手だから。そういう力は小説とあとアメリカのラッパーの歌詞の和訳を読んで養われました。和訳は今も結構読むんですけど、英語を誰かが翻訳して、それを英語をわからない自分が読むんで2段階くらいフィルターがあって、物凄く創作に見えて、より嘘っぽくなるんですよ。絶対こんなの嘘だろってリリックを読むのが、面白くて、結構それは影響してると思いますね」


ーその現実味のなさや、翻訳などのフィルターを重ねた「嘘っぽい」表現に惹かれる理由は?

「自分が知らないものはわからないじゃないですか、だからその世界に没頭できるというか。例えば誰かが地元の(愛知県)知立市の話を小説で書いていたとして、知立のことはよく知ってるから、これ違うよ、こんなとこないよってなるんですよね。だから外国の小説だったり曲の方が世界にそのまま没頭できる。あとは単純に外国に憧れている」

ーちなみにこの2人以外ですごく好きな作家っていますか?

「それがあまりいないんですよね。作家毎にちゃんと揃えてる人ってカズオ・イシグロくらいしかいなくて。あとは本屋に行って、適当に立ち読みしたやつを買うって感じなんで。あとヘミングウェイとかカポーティとかすごい有名な人たちは何冊かは読みました。あでも森見登美彦は好きです。あの人は京都を舞台にしか小説を書かないので、それはすごい面白いなと思って結構読んでますね。同じ場所のことしか書かないってヤバいなって」

ーC.O.S.A.さんは知立のことは今は名前出さなくなってますもんね。

「確かに。これ以上直接知立って名前を出すと、物凄く生活がしにくくなるから(笑)。知立って凄い狭い街なんですよ、みんなおれのことも知ってるし、名前を出すとより住みにくくなるだけだなと思って、わかりにくく言おうとしてます(笑)。『C-City』って言ったり」

ー今はあまり読めないと言ってましたが、それは単純に時間の問題?

「そうですね、昼も仕事して夜に音楽のことをしてると読む時間がなくて。でも読みたいなとは思ってるんですけど。本読まないと頭が悪くなっちゃう気がして。リリック書くのは考えてから書くので問題ないんですけど、普段喋ってる時の語彙力が弱まる気がする。『やべえ』とかしか言わなくなる(笑)。」


ー歌詞もかなりディティールを詰めて書き直すと言ってましたが

「『Girl Queen』のタイトル曲に関してはそうですね。でも普段はあまり書き直したりはしないですね。あの曲はボキャブラリーをすごく意識して、今まで自分が使ってない言葉を使おうっていうのと、あと人の名前をどんどん出していって、それが全部裏で繋がっているということをやりたくて、だから結構書くのが大変でした。でてくる人物とその背景を知らないと聴いている人は意味がわからないと思いますけど。リリックを書く時にボキャブラリーはすごく意識していますね。書いている時は部屋の中をうろうろ歩いていると言葉が出てくるんですよ。逆にずっと座って書くとダメですね。でも言葉が出ない時に、本を読んだりとかアメリカのラッパーの和訳を見たりすると、影響を受けすぎたりパクリにになっちゃうんでしないようにしています。

ー実際に自分で小説を書こうと思ったことはありますか?

「30歳になったら一回書いてみようと思ってて、今年30歳になったのでどっかのタイミングで一回書いてみようと思ってます。小説の書き方とか勉強したことないので、ゆっくりになると思いますけど。書きたいものはなんですかね?恋愛ものかな(笑)。自分が結婚したのもあって、最近夫婦物に弱くて。老夫婦の映画とかにすごい弱いから、全然ハードボイルドのものじゃなくて、柔らかい物を書きたいですね」


ー話を聞く前はハードボイルドな探偵小説とかにも影響を受けてるのかなと思ったんですよね。ライブでの立ち振る舞いも孤独な存在という感じがして。

「そこは多分自分がそういう人間なんだと思いますね。ライブでそういう部分が出るということは。普段生活しているときはあまりないですけど、ライブになると本当に自分の一番ディープなところというか、本当に思っていることが出るから、結果として孤独に見えるんだと思います。だから孤独なんじゃないですか、多分。でもテランの小説とかはハードボイルドなものが多いですね。テラン自身も素性が全くわからない人で、男性か女性かもわからない覆面作家なんですよね。NYのブロンクスに住んでることだけわかってる」

ー先ほど自分の生活はそこまで浮き沈みがないと言ってましたが、そういう日常を書くことも一つのヒップホップのあり方ですよね。でもC.O.S.A.さんの中では、やはり出来事を描くのがヒップホップなんでしょうか?

「いやそんなことないですよ、『Somewhere』とかは日常的なリリックが多いかなと思いますし。そのときの感情にしたがって書いてます。あまり仕事的な感覚で毎日書いたりすると、どうしても変なリリックになってくるので、なるべく思った時に書くようにしてますね。あと気にしているのは物語を作るっていうよりは、1つの出来事を1曲にしようということを『Girl Queen』くらいから思っていて。1つの出来事をどうやって広げるかみたいな」


ーストーリーの核心が語られるわけじゃないんだけど、その周りにあるトピックが積み重なっていく感じですね。

「確かにそういうのはカズオ・イシグロから影響を受けてるかもしれないですね。カズオ・イシグロの作品も結局何があったのかよくわからないものが多いんで。そういうやり方がかっこいいとは思ってますね。出来事を明かし切らない方が、人に伝わると思ってますね。言い切ることで生々しさや過激さを求めちゃうと、最初聴いたときはいいんですけど、すぐ聴けなくなっちゃうと思っていて。言い切らないことと過激な言葉はあまり使わないようにっていうのは大事ですね」

「『Girl Queen』を出してからは、レコーディングする時にリズムに合ってない言葉を変えたり、ちょっと直すようになりましたね。1小節丸ごと文を変えるときもあるし。同じフロウだと自分がつまらないっていうのもあるし、トラックも現行のものを使いたいというのがあるので。そういう意味でも書き方は少し変わったかもしれないです。新曲は今はそんなに出来てないですけど、ビートさえくればすぐできると思います。いつも言うんですけどビートさえあれば1ヶ月でアルバムできると思いますね。リリックが書けなくて苦しいっていうのも全くないので。何かをネタにして書いているわけじゃないから、それが自分の強みだと思うんですけど、どういうところからも広げられるので」


ー1つパーソナルな出来事があれば書けるんですもんね。

「そうですね、ただ全く意味がないトラップみたいな曲も最近作ろうと思ってますけどね、歌って楽しいような。それは俺にとってはすごく難しくて、やっぱり書いてると意味のある言葉になってきちゃうから、意味のないことを書くのはすごく課題ですね」

ー今のアメリカのティーンに人気のLil Pumpなどは本当に何も意味があることを言ってないですからね。

「最高だと思うんですよね、聴いてブチ上がるだけっていう。それは羨ましいと思います。だから今は自分の『気』を消すようなリリックを書いたりしてます。Nasとか今は歯がゆいとか思ってるんじゃないかな、スキルを出せば出すほど売れないから。でも自分は90年代のラッパーを聴いて育っているから、書くときもそうなっちゃいますね」




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