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Maika Loubté ー 明確に見せたい一つの別の世界がある


改装したガレージから放たれる力強い音

アナログシンセや電子楽器を駆使した手触り感のある独特な音色に、フレンチタッチの流れも感じさせるポップなメロディ、そして現実とは異なる世界へのダイブを希求する女の子が紡ぐリリック。この3つが絶妙なバランスで融合し、オリジナルな世界観を提示するマイカ・ルブテ。2016年に発表したアルバム『Le Zip』と、翌17年リリースのEP『SKYDIVER』で一躍注目を浴びた彼女は、現在、東京を拠点に国内外で活動の場を広げている。日本とフランスを行き来しながら10代を過ごしたという彼女に、そのバックボーンと機材や楽曲制作へのこだわりについて、実家のガレージを改装したという隠れ家的なスタジオで話を聞いた。




− マイカさんというとアナログシンセのイメージですが、スタジオにはグランドピアノもありますね。

5歳くらいのときからクラシックのピアノを習っていて、実は10代の頃はピアニストを目指して結構本気でやってたんです。コンクールもいっぱい出たりして、コンセルヴァトワール(パリ国立高等音楽)にも受かって、入るかどうかってところまでいったんですけど、なんかワクワクしなくて、結局進学しなかったんですけど。


− そうだったんですね。クラシック以外の音楽に目覚めたきかっけは何でしたか?

ポップスを聴くようになったのは、小学校の頃にテレビでポンキッキーズとかPUFFYが好きで聞いてたのが始まりで、ビートルズの『1』っていうベストアルバムが出たとき(2000年)、母親が買ってきて聴かせてくれたんです。そこから意識的に洋楽をたくさん聴くようになって、だんだんクラシックのピアノの練習が億劫になってきて(笑)、そのあたりからポップスを自分で作ることにも目覚めました。中学校のクラスに歌の上手な女の子がいて、その子に頼まれて楽曲提供するみたいな遊びをやってました。

− 今スタジオにあるアナログシンセを集めだしたのはいつからですか?

8年前に今のところに引っ越してきてからです。近所のハードオフに行ったら割と安く売ってたんですよ。最初に買ったのがJUNO-106(Roland)なんですけど、弾いてみたらその音にしびれたというか、こんないい音があるんだ!って思ったのがきかっけです。別にヴィンテージシンセの愛好家というわけじゃなくて、私は自分の好きな音、嫌いな音っていうのが明確にあるので、たまたまその好きな音がアナログシンセだったというか。それでバイト代が貯まると全部つぎ込んで、カシオトーン(CASIO)とか、プロマーズ(Roland)とか、この部屋にあるものを買い集めていきました。そうすると、もう使わないからと言ってくれる人も出てきたりして増えていったんです。


− アナログシンセに触れるようになってから、曲作りにどんな変化がありましたか?

私はメロディのある音楽がすごい好きで、それまではメロディの強さっていうのがすべてだと思ってたんです。でも、“音”単体で、それがすごくメロディを活かすものになるんだっていうところに気づいて、音色にもこだわるようになりました。

− 具体的にどんな音が好きなのか聴かせてもらえますか?

はい。(弾きながら)低音がすごい好きなんですよね。スーパーローが出るような音色が。皆さんよくイメージするシンセストリングスみたいな高温域は、実は私はあまり使わなくて、低音のウネリのある音が好きですね(と言って自作した音を出す)。もう完成してるんですけど、次に出す予定のアルバムは、低域がガッツリ出てます。今って、結構上で頑張る音像が流行りですけど、それってテクノロジーに合わせたフォーマットでもあると思うんです。でもそれもテクノロジーが変わったら、また変わるわけじゃないですか。そういうものに左右されるんだったら、とことん自分の好きな音で細部までこだわってみようと思って、新しいアルバムは作りました。


− 音作りの一方で、パフォーマンスするときに意識してることはありますか?

PCで同期を鳴らして歌うっていうのが好きじゃなくて、やっぱり聴き手は人間のフィジカルなところにより感動すると思ってるので、ライブ中に演奏することはこだわりかもしれないですね。あと、最近はトータルで歌が一番重要だなって思ってます。


− マイカさんの歌詞は、眼の前の現実とは別のレイヤーを想像したり、意識のスイッチひとつで他の世界に行こうとしたりするものが多いと思うのですが。

そうですね。共感じゃくてワンダーを届けたい。…ってこれ私のオリジナルの言葉じゃなくて(笑)、『赤色彗星倶楽部』っていう映画を撮った武井佑吏監督が言った言葉なんだけど、私もホントにそうだなと思って。共感っていうのは限界があると思うんですよね。人間ひとりひとりみんな違うわけだし、自分が歌詞を書くときは、どちらかというと音が呼んでくる言葉を組み立てていくので、結果的に共感というよりは、明確に見せたい一つの別の世界があって、それを形にしてるんだと思います。


− MVも印象的なものが多いですが、やはりこだわりはありますか?

ありますね。何でも中途半端なことをやりたくないっていうのがあって、今までにもいろんなタイプのビデオがあるんですけど、たぶん全部一貫してるのは、振り切るときは振り切るっていうところ。MV作るのって、曲がイメージ化されたときに、それが曲を活かすものになるのか、それとも音楽が映像をバックアップするものになってしまうのか、結構賭けなんですよね。だからこそ、例えば自分が出演するなら全力でやリたいし、プロモーションの中で一番お金もかかるし、後悔はしたくない。でも、幸い信頼の置けるフォトグラファーやビデオグラファーが身近にいるので、いつも作るのはワクワクします。


− スタジオには毎日のように来るんですか?

週5くらい来てます。ここにいると時間が経つのが早いのがちょっと悩みっていうか、もう矢のように飛んでいきますね。1日2秒くらいの感じです、マジで(笑)




− 制作に没頭したとき、リフレッシュには何をしますか?

走るのと、あとは料理ですね。走ると単細胞になるっていうか、どんどん意識が単純化されていくんです。バーって身体で汗かいて、シャワー浴びて、よし!って感じ。それは、結構意識的にやるようにしてます。料理は音楽作るのと似てるんですよ。私、ご飯を“制作する”ってよく言うんですけど(笑)、材料切って、これをこう入れてあそこに組み込んでって考えるのが、ミックスするときの感じとも似てて。しかも料理は、やれば必ず何かになるじゃないですか。すごい息抜きになる。

− すべての制作はD.I.Y.の精神ですね。

D.I.Y.だけど、1人の限界ってすごいあると思ってて。“宅録女子”とか呼ばれて何でも1人でできるって言われがちなんですけど、蓋を開けてみると全然そんなことはなくて、周りにいる有能な人たちに助けられています。次に出す予定のアルバムでは、ミックスも含めていろんな人と共同作業できたのが、自分の中でも大きかったですね。

これまで一度も曲作りに困ったことはないというマイカ・ルブテ。日々のスタジオワークと試行錯誤で、すでにその次のアルバム制作もスタートしているとのこと。「そのときの今をすべて出せるように全力を尽くす」のがモットーの彼女の旬が詰まった新作の、いち早いリリースが待たれる。


Maika Loubté マイカ・ルブテ

SSW/トラックメーカー/DJ。東京在住。日本人の母とフランス人の父の間に生まれ、幼少期から10代を日本・パリ・香港で過ごす。agnès b.、Mercedes Benz、STUSSY WOMEN、Shu Uemuraなど国内外の企業・ブランドとのコラボレーションのほか、台湾・中国・韓国・フランス・タイでの音楽イベントに出演するなど、活動の幅を広げている。

https://www.maikaloubte.com/

Instagram: @maika_loubte

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