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Mars89が語るクラブミュージックとファッションの関係性


都内のアンダーグラウンドクラブミュージック・シーンを中心にDJやリリースを行うMars89。海外レーベルからリリースしたトラックがThom Yorkeにピックアップされたことをきっかけに注目が集まり、最近ではファッションブランドC.E.のパーティからEDMフェスEDCにまで出演し、枠組みにとらわれず意欲的な活動を続ける。なにかとファッションと縁がある彼に、音楽との関係性を考察してもらった。


UNDERCOVERに音源を提供

今年大きな話題となったのは、UNDERCOVERのパリコレ向けの音源を彼が制作したこと。デザイナーの高橋盾ことジョニオとクラブで知り合ったことがきっかけだと言う。BalenciagaのVirgil Ablohによるアフターパーティで彼はDJプレイも行い、音楽と密接なファッションブランドに対して訴求力があるDJという側面もある。「ジョニオさんもバージルも、もともとファッションに関わる前から音楽に関心が高く、DJ歴も長いので音楽の人としても接することができています。それもあって、パーティは所謂ファッションイベントとは違った素晴らしいラインナップでしたね」


Mars89から見たパリコレはどう映ったのだろうか?

「パリに行ってショーはいくつか見ましたが、ミュージシャン目線で見てしまい、ショーと音楽が合ってる合ってないかが気になってしまいました。映画でもストーリーに合ったサウンドトラックがあって、雰囲気を作るためには適した音楽があるのと同じように、ファッションショーにも当然それはあると思います。演出込みでショーなので、そのなかのひとつとして音楽は大事だと痛感しました。やっぱり雰囲気に音がバッチリ合うとめちゃくちゃかっこいいんですよ」


自身が手がけたUNDERCOVERのショーの楽曲制作については難航せずに取り組めたようだ。

「もともと『時計じかけのオレンジ』がシーズンのテーマになっていて。映画の世界観を提示してもらっているので、それに沿った曲を作ることができました。ジョニオさんが映画や音楽などのファッション以外のカルチャーに精通してる人だから、ファッションとは別の言語を使いながらコミュニケーションを取れたのはすごいスムーズでしたね」


そういった経験によって、世界の舞台に立つためには共通言語が多い方が良いという気付きがあった。

「ミュージシャンでも、音楽しか知らないよりは他のジャンルに触れて、いろいろな世界を持ってる人の方が面白い作品が作れると思う。僕も音楽の勉強はしていないけれど、ファッションの勉強をして、今なぜか音楽を作っている。モノを作る行為は、どんなジャンルでも哲学的に共通する部分があって。自分の中にある感覚を掘り返す行為ができると、他のジャンルも理解できたりする。だから僕の中では音楽もファッションも他のアートも遠いものではない」


ジャンルを越境することがどのジャンルのアーティストにとっての強みとなり、最近の若手は両軸で楽しんでいるようだ。

「もともと僕は文化服飾学院でファッションの勉強していて、音楽の軸でもファッションの軸でも話ができる共通言語がある。音楽だけの人はファッション的な感覚が共有できなかったり、その逆もありますよね。両軸で話せる人が少ない。でも最近の若い子だと両方楽しんでいる人が増えてきているかな」



Mars89式、服と音源の掘り方


服もレコードも自分で掘る。Mars89ならではの統一された世界感の源流となる、哲学や美意識に触れてみた。

「服も曲も勿論自分で選びます。選ぶ基準は自分が良いと思うかどうかで、そこは一貫はしているかな。それがハイブランドかストリートブランドかとか、大手の音楽レーベルかアンダーグラウンドなレーベルかとかはどうでもよくて。自分の感覚で選んで、ジャンルやコミュニティを意識しない感じが面白いかな。それと自分が外部からカテゴライズされたくない。何々系のファッションとか、何々系のDJとか、あの界隈とか、グループにも所属したくないですね。だからこそ扱いづらいと思う人もいるらしいんですが(笑)」


独自路線を歩みながら毅然とした態度を取る彼に、堀り方に対するこだわりを尋ねると意外な返答があった。

「曲に関しての掘り方はまったくこだわりがなくて。とにかく大量に見ていけば何かしら自分にヒットする。基本的にはBandcampが多いけど、自分にデモが送られてきたら聴くし、オンラインラジオも聴いて気になる曲があったらトラックリストを見たり、Shazamしてチェックしたり、レコ屋でジャケ買いしたり。服に関しても、展示会にもリサイクルショップにも行くし、古着屋とか乱雑に置いてあるところから探すのが好きだったりもしますね」


また表現者としてステージに立つスタンスもあって、ファッションは演出のひとつとして捉えている部分もある。

「ミュージシャンやDJは人前に出るじゃないですか。で、音だけじゃなくて空間を作りたいと思うと、自分の服装は自分がコントロールできる視覚的な表現のひとつだと思うんです。DJはライブアクトと違ってそこまで強くアピールすることは少ないですけどね。ミュージシャンが着た服によってムーブメントが生まれたりすることもありますよね。あと、よくある音楽とファッションの接点にはバンドやレーベルのTシャツなんかがありますよね。バンドやレーベルのTシャツを着るという行為はメッセージを持つので好きだったりもするんですが、ユニフォーム的な着方にならないようにしたいなと思ってます」


Mars89持参の私物を公開

リミックスするようにアレンジされた服を自分で組み合わせて着る。DJ的なセンスの持ち主でもある彼に、お気に入りのグッズを数点持ってきてもらった。


「まずはリュックについているパッチ。ブリストルのBokeh Versionsのオーナーが送ってくれたレコードに付いてきたAvon Terror Corpsって新しいレーベルのパッチ。その下のは、パリにあるお気に入りのタトゥースタジオのアーティストが作っていたパッチ。機材とかにステッカー貼るような感覚で、パッチは服につけられるので好きですね。こういう継ぎ接ぎっぽいのは、クラストコアのカルチャーからの影響もあります。リュック自体は古着屋で安くで買ったギャルソンです(笑)」


「ジャケットは、米軍のアノラック。その上にジョシュアというシルクスクリーンのアーティストが日本に来た時に『PURE DOOM』の文字を刷ってもらったんです。彼は日本のグライムアーティストDouble ClapperzやUKのレーベルBanduluのアートワークもやっている人なんです。米軍のアノラックにUKのアーティストのシルクスクリーンを乗せるのはなんだかちょっとモッズ的かなって気がしたり(笑)。シルクスクリーンもステッカー貼る感覚と近いかもです。」


「夏が近づくとクラブ明けに目が潰れるんで、サングラスは必需品ですね(笑)、いつもなぜか同じようなデザインのものを買ってしまうんですよね。似たようなのを7,8個持っています。」


「BANZAIってブランドのウェストバッグです。これぐらいのサイズって遊びに行く時にちょうどいいんですよ。財布と携帯に文庫本も入るし。スポーティなウエストバッグじゃなくてレザー、フリンジ、ミラーっていう、いかがわしくてハードな感じが気に入っています。」


「コンバースはヒモを結ぶのが大変じゃないですか。だからジップを付けてみたんですよね。ジャングルブーツ用のジップだけが売っているんですよ。ちょっと長さが合っていないけれど、それはそれでいいかなって」


「このベストは、古着屋のNOVO!で買ったんです。マハリシはけっこう好きなUKのブランドで、よくミリタリーと民族的な要素をミックスさせたりしています」


Mars89から見た現在の東京シーン


音楽の聴き方が変わったのはDJを始めてからだという。専門学校時代にDJやり始めた頃は、エレクトロハウス全盛期。それから能動的に掘るようになっていった。

「受け身ではなく自分で選ぶようになってから変わりましたね。その頃は初期のダブステップなどにハマりました。Burial『Untrue』、Skream『Skream!』、The Bug『London Zoo』、Leftfield『Leftism』、Massive Attack『Mezzanine』などをUK産だとは知らないまま、YouTubeで掘ったりCDレンタルして聴いていました。ずっと好きで聞いていたのがたまたまUK産の作品ばかりだったんですよね。あの気候から生まれる暗めの曲が僕には合うみたいです(笑)」


現在活動している場所は東京。都内のシーンに関してはどう捉えているのか聞いてみると、やはり彼ならではの返答で楽しませてくれた。

「似た格好して同じ曲を聞いてみたいな流行はあっても、今の東京に確立されたシーンと呼べるものはまだないと思います。僕個人としてはわかりやすいシーンみたいなのがない状態を割と好ましく思っていて、もう少しオルタナティブに音楽もファッションも楽しむ人が増えたらなお良いかなって思ってます。」


自分の出演でなくとも普段から現場に遊びに行くMars89。都内のシーンにも、個性を尊重し合う理想的な現場がいくつかあるという。

「今のWWWβやForestlimitは可能性をすごく感じる場所ですね。聞こえてくる音もエクスペリメンタルで、遊びに来てる人のファッションも流行とかより各々の好きなスタイルって感じがします。ユニフォーム化したファッションではなくて、よりパーソナルな自己主張としてのファッションになってる気がするんですよ。DJたちの選曲基準も極めて個人的な基準だから、個性を表に出すことに躊躇しない人がたくさん集まって、新しいものが生まれる場所としていい雰囲気になっている気がしますね。すごく派手な格好でもすごく地味な格好でも、何を着て行っても浮かないんです。自分が行っているパーティは割とそうですね」


彼ならではの表現への向き合い方は、国内外問わず他ジャンルのアーティストに響く強度があることが伝わったかと思う。とにかく、何よりも楽しみながら活動している。今後の活動としては今年に年内に数枚EPがリリースされるそうだ。

「国内のリズム感というかペースでリリースを考えるんじゃなくて、日本も世界の一部なんだし世界で活躍してるアーティストを意識して活動すべきだと思っています。来年の夏、東京オリンピックの期間に日本にいたくないので、これからリリースする作品たちを足がかりにその期間中に海外を周れるようにできればいいなと思ってます。その次は制作期間を設けてコンセプトをバッチリ決めたリスニング用のアルバムを作りたいですね。世界観を考えたりして曲を作るのってすごく楽しいんですよね」

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