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変わるために必要な作業だった、西恵利香の“自分を愛する”こと

ダンストラックでもありラブソングでもある、コンセプチュアルなアルバム

2014年にソロシンガーとしてデビューした西恵利香さん。着実に曲をリリースしていくも、なかなか自分の思う表現をすることができず苦悩していた時期もあったが、2017年の事務所移籍を契機に、あらたな道を歩み始めている。このたびセカンドアルバム『Love Me』を完成させた。自分の内面に向き合い、内省的とも思える世界観を、心地よいトラックに乗せて歌う。シンガーという枠をこえ、アーティストとして一歩を踏み出した作品になっている。

—ソロデビューして5年、特にこの2年間は変化の大きな期間でしたね。

ソロデビューしてからしばらくは、曲にしても、歌詞にしても、まだまだ自分のやりたいことを最大限表現することができませんでした。それに窮屈さを感じていたんです。その思いが積もり積もっていました。そこで2年前に、自分の好きなフィールドで勝負してみたいと一念発起し、事務所を移籍したんです。

—自分が表現したかった音と、実際に歌っていた曲の間に、乖離があったということですね。

はい、そうです。もともと、自分の意見を押し通すほうでもないし、表現すること自体があまり得意ではありませんでした。しかし、今は自分がやりたい音楽をしっかりと周りに伝えて、具現化していかなくてはなりません。


—つくりたかった音楽は、当時の自分の趣味・嗜好や体験から生まれたものですか。

クラブアプローチになっていったのは、自分がステージに上がって歌ってみたいイベントがあったり、理想の景色がそこにあったからです。もちろん、自分もそういった場所に遊びに行ったり、ライブもたくさん観ました。生の現場で得た「体感」はとても大きなものです。

—ファーストアルバム『soiree』からセカンドアルバム『Love Me』へは、どのような流れで制作を続けたのですか。

ファーストアルバムのリリース後、去年(2018年)あたりからセカンドに向けてやりたい音楽の方向性が固まってきました。そのなかで今作の先行シングル「オンリーユー」をリリースしました。この曲は特にコーラスワークにかなりこだわりましたね。何トラックあるのかわからないくらい、重ねて重ねて。主メロディを録るよりも多くの時間を費やしました。アルバムは「オンリーユー」を中心にして、制作していきました。これまでに比べて、楽曲の世界観を大事にして歌い上げる曲が少なくなったこともあって、全体的にもコーラスが多くなりましたね。



—確かにファーストアルバムと比べると、今作はよりエレクトロ化しているし、クラブライクでダンス寄りにシフトしていると感じました。

クラブなどでBGM的にかかっていて気持ちのいい音にしたいと思いました。歌詞にもありますが、金曜日の夜に、仕事に疲れたOLさんたちが心地よく踊れるような音にしたいと思って。特に「5AM」は、クラブのクローズの曲としてかかってくれたらいいなぁ。“少しつかれてきたけど気持ちいいな、でもお酒飲めちゃいそうだ”という心地良さのなかにある踊れる気持ち。自分が聞きたかった音に仕上がったと思います。


—クラブアンセムになりそうな良曲が多いですよね。そのほとんどのプロデュースをSosuke Oikawaさんが手がけられていますが、どのようなやりとりがありましたか。

今作は創介(Sosuke Oikawa)がボーカルディレクションもしてくれたので、彼とふたりでつくったといってもいいアルバムです。制作中のアドリブも結構多くて、「コーラスはこうしよう」とか「メロディ変えちゃう?」とか、その場でかなり柔軟に変化させていきました。

—Sosuke Oikawaはプロデューサーとしてどんな存在ですか?

私が出したデモに対して、音楽のトレンドとかアプローチの仕方などを教えてもらうことが多く、先生みたいな感じです。あとは、以前にリファレンスにしていたアーティストの歌詞がどうなっているのかと思って調べてみたら、めちゃくちゃ韻を踏んでいることを知って。それで私もなぜかやらなくちゃと思って、韻にとらわれ過ぎていた時期があったんです(笑)。でも創介が「そんなに考え過ぎなくてもいいのではないか」と言ってくれて、背負い過ぎていたんですね。そういう“はがしてくれる”アドバイスも創介の役目です(笑)。


—今作もほとんどの歌詞を西さんご本人が書かれていますが、歌詞を書くにあたっては、何から始めるんですか?

最近は、歌に出てくる主人公の設定を細かいところまで決めるようにしてます。例えば「オンリーユー」は、24、25歳の女性が主人公の失恋ソングなのですが、「どうやって失恋したのか、相手はどんな男か、職業は? 髪形は? 服装は?」と。もともと小説や映画が好きなので、ひとつのストーリーをつくって、そこから削いでいく感覚です。歌詞にすべてダイレクトに表現されるわけではありませんが、聴く人がきっと想像しやすいだろうと思うんです。でも……、大変でした(笑)。ちなみに「オンリーユー」ってタイトルはカタカナが正式。ありふれた言葉でもあるので、英語だとさらっと流されてしまう気がして。でもカタカナにすることによって、パッと目を引くようになったし、パッと読めることで意思がしっかりと伝わりそうな気がするんです。

—かなり一人称の歌詞が多いですよね。

自分が30歳になったばかりなのですが、こんな大人で大丈夫なのか不安になってしまったんです。周りとも比べてしまうし。「Take it slow」や「Brighter Day」など、自分を励ますために、自分に向けた歌詞も多くなりました。


—今作は『Love Me』というアルバムタイトルですが、自分を愛することは難しいですか。

難しい。ずっと難しいです。でもこのアルバムをつくった結果、少しだけ自分を愛することができるようになりました。リリースしてから「オンリーユー」が、今までよりも多く、女性のリスナーに聴かれているみたいなんです。私がメッセージを届けたい層は、同世代から少し下の悩んでいるであろう年代。自分の内面を表現した歌詞が、きちんと思い描いた人たちに届いたということは、とても自信になりました。

—これからは、どのようなアーティストになっていきたいと思っていますか。

今作をきっかけに同性で同じような悩みや不安を持っている方に寄り添えたり、少しでも背中を押せるような存在になっていきたいです。今は、何でも意見を出し合いながらつくれる環境にいて、めちゃくちゃ楽しいです。自分で自分のことをつくっていくのってなんかこそばゆいですけど、周りが一緒につくってくれることで、俯瞰しながら「西恵利香」をつくっていける気がします。


—チーム「西恵利香」みんなですてきなブランドを育てていければいいですね。

はい。でも目先のこととしては、とにかく続けていくこと。簡単そうで難しい。続けていくためには、変わり続けていくことも大切だと思っています。同じ場所に留まるのではなく、時代に沿って、常にアンテナを張って。もちろん変わらないことも魅力のひとつですが、私は柔軟でいたいと思います。

—たしかに変化の大きな時期であり、作品でもありました。

そういう意味で、今作をリリースするときは、すごくびびりましたよ。前作とも違うし事務所、レーベルを移籍する前とはまったく違う。変化することによって、正直、失うものはあると思います。しかし得るものもたくさんあると信じています。失うものがあったとしても、変わりたかった。その結果として生まれたアルバムです。


西恵利香

2014年からソロシンガーとしての活動を開始。今までに5枚のミニアルバム、1枚のシングルをコンスタントにリリースし音楽活動を軌道に乗せながら、マルチなキャラクター性からFM-FUJI「EVENING RUSH」の水曜日レギュラーDJに抜擢されタレントとしても幅広く活動。近年では冨田ラボ、tofubeatsなどの楽曲へのコーラス参加やMV、WEBCMなどへのモデル出演でも起用されるなど各所からの信頼も厚い。ソロ5周年となる2019年10月、2ndフルアルバム『Love Me』をリリース。

http://www.nishierika.com/
Instagram: @nishierika_0111

Text: Tomohiro Okusa
Photo: Eisuke Asaoka

Venue: EBISU BATICA
http://www.batica.jp/

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