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高岩遼とTWILLOが教える魅惑の路上

高岩遼。フランク・シナトラ、レイ・チャールズに憧憬を抱き、また彼らを超えるシンガーに成り上がろうとしている男である。ジャズシンガーとしてのアイデンティティを核に、それぞれ首謀者でありフロントマンとしてザ・スロットルではロックンロールサイドのアプローチを、SANABAGUN.ではヒップホップサイドを見せる現代の音楽千両役者でもある。

ザ・スロットルと SANABAGUN.が、路上ライブで名を上げたことは有名な話であるし、かつて渋谷や新宿で繰り広げられたこの2組の路上ライブを伝説の証人になるために目撃したという人は少なくない。

「今日は酒を飲みながら話せると聞いて楽しみにしていました」(高岩)


高岩を迎えてくれたのは、神条昭太郎だ。彼もまた路上で活動する一人。特定の住所を持たない知る人ぞ知る移動式の屋台バー、TWILLOのオーナーである。2017年のスーパームーンを目撃できると言われたこの夜、TWILLOはタワーマンションに囲まれた豊洲の交差点の一角にあった。

「営業は盆も正月も関係なく、ほぼ毎日やっています。どちらの方向に行くか、それだけを決めて屋台を移動しているんです。豊洲界隈には2週間くらいいますね」(神条)



ー現役で路上を生きるTWILLOのスタイル

神条が神出鬼没のTWILLOをオープンしたのは、今から11年前。当初は外苑前のイチョウ並木周辺で屋台を引いていた。都内を転々とするようになったのは、約7年前だという。店の照明となる1本のロウソクのもとで神条がバカラのグラスにストレートのブランデーを注ぐ。客に出す酒も、その日によって異なる。高岩は静かにグラスに口をつけると、神条に問いかけた。高岩はたとえ初対面であっても自身が直接向き合う人を下の名前で呼ぶ。

「昭太郎さんはこの屋台を始める前からずっと飲食関係のお仕事をされていたんですか?」(高岩)

神条は手元にあった葉巻に火をつけて丁寧に紫煙をくゆらせながら、高岩の質問に答える。

「いいえ。大学を卒業して、最初に就いた仕事は銀行員でした。今となっては笑い話のネタにしかならないんですけど、屋台を引く前は衆議院議員の公設秘書をやってました(笑)」(神条)


神条は、あるときの選挙を契機に「これが終わったら自分の力で食っていこう」と決めた。生業を生み出すためのアイデアはいくつか浮かんだが、自分の中に3つの絶対的な条件があったという。

「1番は自分の世界観を表現できること。2番目は自由度が高いこと。3番目は細々とでも食っていけるということです」(神条)

その3つを同時に満たすために熟考し生まれたのが、TWILLOだった。つまり、神条は飲食関係の仕事に興味があったのではなく、自らの理想を叶えるために屋台バーというスタイルにたどり着いたのだ。屋台という言葉から連想するパブリックイメージとは一線を画す洒脱でどこか神秘的な店の佇まいと、神条の存在感の理由はそこにあった。神条は、路上で自分の生き方を見つけたのだ。


ー路上を“卒業”した高岩遼がそこに見たものとは?

「俺が路上ライブをやり始めたのは今から4年前くらいかな? 俺はザ・スロットルと SANABAGUN.、どちらもずっと路上ライブをやってました。おそらく、路上ライブをバンドスタイルでやってきた歴代のミュージシャンの中で一番(警察の)取り調べ調書を書いたのは俺だと思います(笑)」(高岩)

高岩にとっての路上ライブは、成功をつかむための過程にすぎなかった。だから、一刻も早くそこから抜け出したかった。では、路上で得たものは何か? 神条が高岩に出した2杯目の酒は、極上のラムだった。もちろん、ストレートで。


「ああ、このラムも美味いですね。路上で得たものか。なんだろう? リアルにお金ですかね。路上ライブで道行く人たちに生のパフォーマンスを観てもらって、反応してくれた人にCDを買ってもらうのがお金を稼ぐために一番手っ取り早い手段だったというのが正直なところです。だから路上だった。

昭太郎さんがさっき挙げた理想の3点は俺も共感できるんですけど、俺らは本来、ミュージシャンとして大きなステージを目指すべきだと思ってるんです。そういう意味では、路上でお金以外に得たものは悔しさ。そうだ、あとは人との出会いもありますね。お客さんもそうだし、警察の方ともそう(笑)、いろんな人と出会えました」(高岩)


人の出会い。なるほど、そこにはきっと路上ならではの醍醐味があるだろう。神条も高岩の話に首肯する。

「私はどちらかと言えば口下手で、お客さんがワイワイ話してるときも会話に入ったりしないんです。だから、最初はこういう対面の商売は向いてないかもしれないって自分で勝手に分析していたんです。でも、実は僕がお酒を出してお客さんが話に咲かせているのを見るのってすごく楽しくて。やっぱり自分は人のことが好きなんだなってあらためて思いましたね」(神条)

「SANABAGUN.は2015年の10月にメジャーデビューすることになって、路上ライブをやめたんですけど、ザ・スロットルはやり続けたんです。でも、いよいよ書類送検までいくというところまでいってしまった。そのときにとある警察の方が『こいつは男気があるやつだから』と言って書類送検を止めてくれたんです。

それからザ・スロットルはその場所での路上を卒業しました。で、その止めてくれた警察の方があるときにライブハウスに遊びに来てくれたんです。私服が超イケていて。泣けましたね。それも得がたい出会いだと思います」(高岩)

ザ・スロットル / Rock This Town

それぞれの表現方法は異なれど、後世に名を残すために己の美学を貫く二人の男。最後に高岩と神条は、それぞれの夢をこう語った。

「まずは高級車に乗ることじゃないですか。いつかまたTWILLOに顔を出すときは、運転手に『ちょっと停めておいて』と言って、昭太郎さんに『おひさしぶりです』って挨拶したいですね。そして、美味い酒を出してもらいたい」(高岩)

「もう都内にはこういう移動式の屋台は数えるくらいしか残っていないので、僕はいわば絶滅危惧種だと思うんです。でも、せっかく絶滅危惧種の一人になっているので、こうなったら東京最後の一台になって伝説を残したいですね」(神条)


TEXT: Shoichi Miyake
PHOTO: Wataru Suzuki

Ryo Takaiwa

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