search search

ストリーミングサービスが描く未来像。 角張渉 × 石井リナ

iPodの登場と共にダウンロード型であったiTunesがサービス面でみる音楽業界を台頭し、その後2015年にApple Musicを始めAmazon Music UnlimitedやLINE MUSIC、Google Play Musicといったストリーミングサービスが相次いで参入を果たし、2016年には本命とも言えるスウェーデン発のSpotifyがここ日本にも本格上陸した。そうしたストリーミングサービスが市民権を得ている昨今、音楽との向き合い方も少しづつ変容しつつあると言える。その中で今回、設立15周年を迎えたインディレーベル「カクバリズム」の代表である角張渉さんと平成生まれで「BLAST.Inc」代表取締役兼SNSコンサルタントとして様々なメディアで多角的に活躍する石井リナによる、世代・性別・業種を超えたクロストークを敢行。今後、ストリーミングサービスが描いていく未来像を紐解いていく。


音楽を探すことに対して思考停止させない

石井:今日はよろしくお願いします。早速なんですけど、角張さんは普段音楽系のレーベル会社を運営されていて、そういった立場の方がどういった形でストリーミングサービスを利用しているのか気になります。

角張:はい、よろしくお願いします。そうですね。僕自身はユーザーとしてはSpotifyをメインで使っていますね。ただ会社としてはSpotifyやストリーミングサービスを全面的に解禁しているわけではないんですよね。日本に上陸してすぐにSpotifyの人から連絡を頂いて、しばらく様子見していたんですよね。それから半年くらい経って、やっぱり気になってしまって笑。お詫びを入れつつお会いすることになり、色々と有益でありがたい話も聞けたので、レーベルとしても一個人として試しに使ってみようかなと思ったのが経緯ですね。

石井:私もSpotifyはかなり使っています。便利だなって感じることとかありますか?

角張:毎週土曜日にラジオ番組をやらせてもらっているんですが、その時の選曲の際に活用したりしていますね。自宅に5000枚近くレコードがあるんですけど、整理できてないとか、やっぱり目当ての一曲を探し出すのは大変だったりするので、そういった点では便利ですね。

石井:5000枚! 膨大な数ですね!

角張:僕の年代だと案外レコードたくさん持っている人多いんですよ。石井さんはレコードとかCDとかでは聞いたりしないですか?

石井:私、レコードもCDも今は持ってないんですよね(笑)。むしろ音楽プレイヤーもなくて、基本的にはこうしたストリーミングサービスかYouTubeを使うことが多いです。


角張:新世代ですね(笑)。ちなみに初めて買ったCDってなんでしたか?

石井:CDだと…多分PUFFYですかね。音楽に対してそこまで執着心がないかもしれないんですけど、ストリーミングサービスに関しては、なにかしらの目的意識を持って使うことが多いかもしれないです。Spotify以外にもApple Musicを使っているんですけど、それは宇多田ヒカルさんを聴くために使っているようなものだったりすもするので…(笑)。少し特殊かもしれないですね。

角張:そうなんですよね。僕も最初は自分の好きな曲だけ聞いてしまう傾向があって、新しい発見のないプレイリストになってしまいがちで、気がつくと思考が停止しているんですよね(笑)。なので最近は、極力知らないアーティストや普段聞かないジャンルとかも聞いたりしながら、「あなたにオススメな曲」みたいなリストが出てくるので、そこから良い作品を探したりもしていますね。

石井:なるほど。レコメンド機能は、ストリーミングサービスのいい部分だと思うんですが、好きなものしか受容していかなくなるっていうフィルターバブルの側面もありますよね。

角張:今年40歳になるんですけど、僕らの世代ってセレクトされているものに対しての感受性は高かったりするんですよね。それこそセレクトショップが全盛になっていく時代になんですけど、ある程度洗練されたモノを与えられていたんですよね。自分で選んでいるつもりなんだけど、実は選んでないというか。そこに対してどっか反抗して、自分でディスカバリーな感じでいきたいと思うんですけど、結果的にあまり変わっていなかったりもして。そういった意味でもストリーミングサービスの中での限定的な楽しみ方っていうのはあるのかもしれないですね。

 

Spotify=ラジオという新しいプロモーションメディアとしての可能性

石井:あとは少し前だとAWAやLINE MUSICなんかも一通りは使ってきたんですが、やっぱり今はSpotifyが使いやすいですね。デザイン的な部分もすごく洗練されていて、ユーザビリティも高い気がします。

角張:確かに。今っぽいというか、若い子にも響くデザインですよね。

石井:普段、様々な企業とSNSにまつわるコンサルティング業務に携わったり、過去にはInstagramのマーケティングの本を出版したりもしているのですが、コミュニケーションをとる上で、デザインやクリエイティブってとても大事ですよね。特にミレニアル世代にとって重要な判断要素の1つ。Spotifyは色合いや書体、グラフィックデザインなどかなり今っぽいと思います。

角張:Spotifyは特にそういったデータ分析もしっかりとやっているんでしょうね。

石井:角張さんはカクバリズムを立ち上げる前は、大手レコードショップに勤めていたと聞きました。そういった実店舗は、ストリーミングサービスを競合のように捉えているんでしょうか?


角張:んー、全く別の業態として捉えるべきだと思うので、競合にはならないんじゃないですかね。影響は少なからずあると思いますけど、僕が働いていたディスクユニオンは中古レコードの物流量でいったら世界一じゃないかなとも思いますし。

石井:確かに中古市場とはまた異なりますよね。新譜の作品を売っているわけではないですもんね。

角張:新譜も取り扱ってますけど、中古がメインではありましたね。ただ中古のCDやレコードを持っている人っていうのは何十年したら確実に減っていきますよね。そういった意味ではやっぱり影響はあるのかもしれないですね。

石井:私の周りでも主流はやっぱりストリーミングサービスで、周りでCDを買うって行為自体が減っていると実感しますね。保有する文化自体が薄れているのかなとも思います。

角張:やっぱりそうなんですよね。少し前まではそういった現状に否定もしていたんですが、最近は色々と考えて、完全に否定するのも違うなって思うようになりましたね。

石井:以前はなんで否定されていたんですか?

角張:ただレコード、CDというものが好きという感情と、単純に収益率が低いのと、アーティストに対する還元のシステムがあんまり平等に感じなかったので。特に僕はこうしたインディレーベルを運営している身なので、音楽がライトに扱われていることに対して毛嫌いしていたんでしょうね。最近はそんなこともないなって思いますけど。


石井:手軽に音楽を聴けるというメリットが、その反面アーティストへのサポートに直結していないってことですね。

角張:うーん、そうかもしれないですね。短絡的な目線だとそうですね。ただ長い目で見て、活動が順調だったりするとまた優位に働くケースもあるので、それはサポートになるなって思います。フィジカル作品にはストリーミングサービスにない細部の細かな美しさや、楽曲の内容とのシンクロや言葉にできない魅力があるというのが、気付かないまま過ぎてしまうのも嫌だったのかですね。

石井:確かにいまは、コンテンツもスキッパブルな時代なので、メディアの記事にしても見出しだけ読んで離脱してしまう人も多いですよね。

角張:そこは今後の配信サービスが抱える一つテーマになっていくと思いますが、先ほど完全には否定していないと話をした理由として、Spotifyなどストリーミングサービスはなんかラジオ局へ営業に行っている感覚に近いんですよね。新作の曲をSpotify=ラジオで流してもらって宣伝するという。

石井:プロモーションとして活用するっていう形は新しいかもしれないですね。
角張:そこも今後、様々な分析をしていきながら判断していく必要がありますよね。


Spotify=ラジオという新しいプロモーションメディアとしての可能性

石井:例えば、SNSの延長のような感覚で活用していくイメージに近いんですかね?

角張:SNSといってもほとんど活用できていなくて、個人でやっているInstagramも猫の写真の方ばっかイイネがつく有様で(笑)。カクバリズムに所属してくれているアーティストもあんまりSNSを活用しまくるってのが得意ではないですね。だからユーザーが勝手に宣伝してくれるっていう方法が一番健全ですよね。

石井:それは今まさにSNSの中でも主流となっていて、UGC(ユーザー・ジェネレーション・コンテンツ)という名で、とても効果的なブランディング手法として注目されているんです。もはや企業がプロモーションできる内容や範囲には限度がありますから。

角張:なるほどね。そこに対しては僕の中でも葛藤があるんですよね。プロモーションをしすぎるとアーティストの品位が落ちてしまう気もしていて、常にカッコよくいてほしいという想いもあって。もちろん売れてほしいという想いも当然ありますから。柔軟性のバランスが大事ですよね。

石井:レーベルを主宰する角張さんならではの悩みでもありますよね。


角張:僕の先輩で曽我部恵一さんというミュージシャンがいまして、下北沢を拠点にローズレコードというインディレーベルを主宰しているんですが、そのレーベルでは前触れなくSpotifyに新曲をアップロードして、その後それのフィジカルの作品をリリースしたり、スピード感あふれる活動をしていて。かと思えば、Spotifyのオリジナルの機能として音質を随時変えてアップできるというシステムを活用していて。そうした“今しか聴けない”という付加価値を付属させる考え方は面白いなともいますね。

石井:面白いプロモーションですね。いつでも側にあるっていう安心感が、無意識のうちに身近にあるはずの音楽を遠ざけてしまう可能性もあるんですね。


角張:しっかりと良い音楽を提供していくという使命は変わらないので、カクバリズムという旗は持っているけど、最終的にその旗を持っている場所までファンの人たちに集まって来てもらえるのが理想ですね。

石井:その方法論として今後ストリーミングサービスがどういった形で影響していくのか楽しみですね。

角張:レーベルとしては今後も動向を静観というか見守りつつ、アーティストへのサポートを第一に考えていこうという段階ですね。まさに今、レコードからCDへと移行した時代があったように変革期でもあると思うので。ただこれ単純にストーリミングでお金がもっと入ってくるようになったら一気に変わりそうですけどね(笑)。あとはそこがインディペンデントな活動を行うアーティストたちが良い意味で活躍できる場となってくれたら良いですね。

石井:私もSpotifyや他のストリーミングサービスをもっと駆使して、色んなアーティスト探してみたいですね。

角張:次はお互いのフィールドで実用的な企画もやってみたいですね。僕がストリーミングサービスを活用してプロモーションをしていくとか、石井さんがアナログな手法で音楽と触れ合うとか。

石井:それ楽しそうですね! 是非楽しみにしています!




「カクバリズム」代表 角張渉
1978年宮城県仙台市生まれ。1999年にインディレーベル「STIFFEEN RECORDS」をkilikilibilaの安孫子真也との共同運営で開始。その後2001年に自身が手掛けるインディレーベル「カクバリズム」を設立し、昨年15周年を迎えた。YOUR SONG IS GOOD、SAKEROCK、ceroなどの数々の人気アーティストを抱えながら、独自のアプローチで音楽業界を牽引する。



「BLAST Inc.」代表/SNSコンサルタント 石井リナ
1990年東京都生まれ。大学卒業後、WEB広告のコンサルタント会社を経て、フリーランスへ転身。数々のメディアや企業にてSNSを中心としたコンサルタント業を行いながら、マーケティングメディア「COMPASS」の編集長も務める。さらに今年自身の動画メディアをリリースするなど、多方面で活躍。著書に「できる100の法則 Instagramマーケティング(インプレス)」などがある。

SHARE

}