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映像への偏執的な愛情あふれる『The Was』

2016年にもっとも話題をあつめたアルバムのひとつが、オーストラリアのユニットThe Avalanchesによる16年ぶりのアルバム、『Wildflower』であったことは間違いないだろう。2000年の『Since I Left You』で見せた、膨大な音源からサンプリングされた素材を緻密に編み上げる彼らのスタイルはそのままに、よりポップでサイケデリックな世界を展開した快作だった。同作と前後して、彼らはSoda_Jerkなるユニットとコラボレーションしたショートフィルム『The Was』をインターネット上に公開した。『Wildflower』から提供されたサウンドトラックをバックに、129作品に及ぶ映画やテレビ番組、アニメーション、ミュージックビデオなどをサンプリングしたこの作品は、まさしく『Wildflower』の映像版、もしくは「サンプリング」もしくは「映像」というメディアへの偏執的愛情の表現の一つと言っても差し支えないだろう。

The Was, 2016 from Soda_Jerk on Vimeo.


元ネタを列挙すればきりがない――ジム・ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』から『ブルース・ブラザーズ』、あるいはセサミ・ストリートのマペットに至るまで、様々なフッテージが丹念につなぎ合わされてゆく。あまりのスムースさに、それがマッシュアップされたものであることを忘れてしまうほどだ。 5年もの歳月をかけて制作されたというのもうなずける。 『The Was』は、サンプリングとマッシュアップの快楽を最大限に味わわせてくれる。この作品の、ノスタルジックでありながらも今まで見たことがないような、「これまで存在したことがない過去」とでも言うべきビジョンは、広大なアーカイヴの海を自由に渉猟することによって実現するものだ。

この作品をThe Avalanchesと共に制作したSoda_Jerkは、シドニー出身であるDominiqueとDanのAngeloro姉妹で結成されたユニットだ。彼女たちは2000年代初頭からサンプリングを駆使した映像作品を制作しており、本国オーストラリアのみならずヨーロッパやアメリカでの展覧会に多数参加し、作品上映のみならずビデオ・インスタレーションやレクチャー形式のパフォーマンスも手がけている。

彼女たちはi-Dマガジンでのインタビューで、自分たちの活動のモチベーションについて次のように語っている。

「私たちの実践を駆り立てるものはそれほど変化していないんです。活動を始めるにあたっての私たちの重要なモチベーションは、フリー・カルチャー・アクティビズムを支援することにありました。私たちはいまでもこのアクティビズムに深くコミットしています。」

『The Was』がそうであったように、あえて権利のクリアランスをせずゲリラ的に公開・配布するということも、彼女たちの活動の一環である。事実、彼女たちは同じインタビューで、「 私たちにとって重要だったのは、このプロジェクトが音楽産業に関わるものとして意図されたのではなく、むしろインターネットに向けられたものだったということでした」と語っている。こうした彼女たちの姿勢がよく現れている作品に、 ハリウッド映画を縱橫にサンプリングして編まれた56分に及ぶ大作、『Hollywood Burn』(2006年)がある。人体改造を施されたエルヴィス・プレスリーが、著作権法によってコンテンツを支配しようとするモーゼ一味に立ち向かう、荒唐無稽なSFだ。全編を覆う過剰なまでのサンプリングは、そのストーリーと同じくらい破天荒でアナーキーだ。

Hollywood Burn, 2006 from Soda_Jerk on Vimeo.


他方、Soda_Jerkは、サンプリングという技術を通じて、映像メディアの本性を追求する作品も制作している。2005年から制作されているシリーズ『Dark Matter』は、映像メディアにおける老いや死を主題とするものだ。このシリーズで取り上げられるのは、ジョーン・クロフォードとベティ・デイヴィス(『The Time that Remains』、2012年)、ジュディ・ガーランド(『After the Rainbow』、2009年)、リヴァー・フェニックス(『The Phoenix Portal』、2005年)といった物故したハリウッド・スターたち。それぞれの作品のなかで、若き日の彼らは年を取った自らの姿に直面する。

そもそも映画というメディアは、生者の姿をそのなかに封じ込めることで、現実とは切り離されたひとつの永遠性を彼に与える。しかし、『Dark Matter』では、ひとりの俳優の人生がひとつのシークエンスのなかに畳み込まれることによって、永遠性はほつれ、老いやその先に待ち受ける死という容赦ない現実が画面のなかに忍び込んでくる。その光景は不意に幻視された未来のようであり、あるいは忘れることのできないトラウマの記憶のようでもある。このシリーズでは、映像はもはや「揺るぎない過去の記録」であることをやめ、過去・現在・未来が混濁した不気味なメディアとしての本性を明らかにする。

Soda_Jerkは現在、オーストラリアの映像作家助成プログラムであるIan Potter Moving Image Commissionからの助成を受け、2018年にACMI(Australian Centre for the Moving Image)で発表予定の新作『Terror Nullius』を制作中だ。オーストラリアの歴史を現在の視点から編み直す、アートフィルムとB級映画を共存させたような作品を目指しているという。『Terror Nullius』を含め、彼女たちの作品を日本でも見る機会に恵まれることを祈りたい。

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