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tofubeats ― 機材と向き合い、成長する

今年は5月に最新アルバム『FANTASY CLUB』をリリースする他に、ライブ出演、ドラマ主題歌やサウンドトラック、アニメ番組の編曲も行うなど、多忙な1年となったDJ/プロデューサーのtofubeats。本作は過去作と比べて内省的なアルバムと評する声が多いが、その内省的という形容とは反して、tofubeatsはアルバムで声をよく張っている。象徴的なのはアルバムの最初と最後に収録されている”CHANT #1”、”CHANT #2”だろう。ネガティブ(とポジティブ)がtofubeatsらしからぬ大声で歌われている。オートチューンがかかった彼の歌声、発声はどのようにアップデートされたのだろうか?

ー 「せっかくいいマイク買ったんだから、使いこなせるようにならなきゃダメだよ」

「声を張っている」ということについてtofubeatsは明確な転機のタイミングがあったと言う。それはFANTASY CLUBの制作中に聴いたスタジオエンジニアのillicit tsuboiからの一言だった。

tofubeatsは、illicit tsuboiのスタジオでラッパーのYOUNG JUJUと"LONELY NIGHTS"の制作をしていた時のことだ。彼はアルバムに収録予定の曲をスタジオで、その名スタジオエンジニアに聴いてもらっていた。ちょうどアルバムに収録される1曲目の"CHANT #1"を聴いてもらいながらのことだった。「最近Neumann(ノイマン)のマイク買ったんですが、結局馴染まなくて昔から使っていたマイクに一回戻したんです、と言ったら、illicit tsuboiさんが『せっかくいいマイク買ったんだから、使いこなせるようにならなきゃダメだよ』とアドバイスをくれたんです。スタジオから帰ってきてから、これまでに作った曲全部撮り直したんです」と、スタジオでのやりとりを教えてくれた。


Neumann(ノイマン)は、コンデンサー・マイクやスピーカーなどプロ用のオーディオ機器を手掛けるドイツのメーカー。Neumannのラインナップの中で、そのコンデンサー・マイクは音楽史に名を残す数々のレコーディングに使用されてきた。Neumannはスタジオ・マイクの世界的スタンダードとなっている。

そのNeumannのマイクをtofubeatsはこう評する。「このマイクって、今まで使っていたマイクよりいいやつなんですが、『そのままの音が録れる』んです。つまり、下手なボーカルは下手に録れちゃうんです。正直なんです。それは逆に、自分がいかにちゃんとやってなかったかを思い知らされてしまうんです。自分の声はやっぱり下手なんですよ。逆に今まで使っていたマイクだと『ピントがボケて』くれていたんで、勝手にそれっぽく聞こえてたんすが、それはまやかしだったんす」と、tofubeatsは語る。今回のアルバムの制作にあたり、tofubeatsは新しいマイクと自分の声(発声)を見つめ返すところから出発したようだ。「それがいろんな人から『歌が気合入ってる』という評価につながっているのかもしれない」とtofubeatsは推測する。

ー tofubeats マイクと向き合う


今までは「正直な所、自分にはマイクはある程度以上のものだったら大丈夫と思ってたんです」と語るtofubeatsは「気まぐれ」で7年使い古したマイクから、ちょっといいマイクにグレードアップしてみた。その高いマイクを自身で使ってみたところ「声の乗りが悪いな」と思ったそうで、結局以前から使っていたマイクを使ったが、「illicit tsuboiさんに『スタジオで使うマイクっていうのはそんなもんだよ』」と諭され、そのマイクと向き合い始めた、ということだ。

tofubeatsはスタジオでの出来事のあと、このマイクで「良いボーカル」を録ることができるようにいろいろ試した。録音のための機材の設定を変えたり、撮る時のマイク・セッティングなど、いろいろ繰り返し変えた。しかし、その工夫の中で一番大きい変化をもたらしたのはマイクをスタンドに立てることだった。「誰しもが当然のようにスタジオではやることなんですが、まずマイクをスタンドに立てて、自分も立って歌うことから始めたんです」。そうすると腹から声が出ていると自分でも分かるように、はっきりと変わったようだ。

それでもtofubeatsは「どうしても自分が歌う曲に対して『いつか誰かに歌ってほしい』との思いがあったのかもしれない」と言う。やはり今でも「歌っている自身」に違和感はあるようだ。「歌うことが心の底から好きかというと微妙ですね。やっぱ自分以外の人が自分の作った曲で歌ってもらうほうが落ち着いて聴けます。今回のアルバムでも自分で一番聴くのが"YUUKI"。自分が出てこない曲の方が、余裕を持って聴けます」と、声が出るようになったとしても、他人に歌ってもらった方が落ち着くそうだ。tofubeatsが今作のお気に入りの1曲に挙げているのが"YUUKI"のゲストボーカルのsugar meが使用するマイクは偶然にもNeumannのものだった。作曲する時も、suger meのボーカルと自身のコーラスが同じメーカーのマイクで録音されていたため、制作しやすかったそう。

tofubeatsは「そもそも宅録だし、良いマイク使うより、防音とか車のノイズが入らないようにするほうが意味あると思っていたけど、ようやく良いマイクは良いなと素直に認められるようになりました」と、どこか納得しつつある。

ー 機材と向き合って、成長する


「なまじ今まで買えなかった機材も買えるようになってしまっていたんです。昔はバイトして機材を買って、それを一所懸命触って、いろんなことを発見して、工夫したり練習してたんです。基本的にその積み重ねの繰り返しだった、という大事なことを忘れていたのかもしれません。バタバタしてると1つの機材に向き合ってる時間もないんですが、今回のことはそれを思い出させてくれました」(tofubeats)

と言っても「新しい機材」を買うことの胸の高まりのようなものをtofubeatsは否定するわけではない。「新しいマイクを使いこなしたい!っていうまた違う種類のモチベーションで頑張るっていうのが、結果すごくよかったのかもしれません。マイクと向き合うことで成長できたので、買って良かったなと思います」と、tofubeatsは最後に衝動買いの意義もあると、肯定してくれた。

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