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ターンテーブリズムの概念を拡張する2つの発明

2枚のレコードを巧みに操り、華麗にスクラッチをきめる。ターンテーブリズムと聞いて、そんなDJの姿を思い浮かべる人は多いだろう。しかし、テクノロジーの進化に伴って、ターンテーブリズムの表現形式が大きく拡張されつつあることはご存知だろうか。

耳馴染みのない方のために簡単に説明すると、ターンテーブリズムとは、ヒップホップ・カルチャーを出発点とした、DJ用レコードプレイヤー(=ターンテーブル)を使ったパフォーマンス・アートだ。スクラッチやジャグリングを駆使したパフォーマンスは、世界中に熱心なファンを持ち、ターンテーブリズムの大会も行われている。

DJ ANGELO - Funky Turntablism

もともとレコードとターンテーブル、DJミキサーという機材から始まったターンテーブリズム。今では、コントロール・ヴァイナルと呼ばれる特殊なレコードを使い、レコードを直接操るかのように音源データを演奏できるようになった。ラップトップPCで選曲をしながら、コントロール・ヴァイナルでスクラッチをきめるDJの姿が当たり前になり、アナログレコードでは考えられない自由度の高いプレイが探究されている。

こうしたメーカー主導のイノベーションがトップダウン型だとすれば、現場のDJたちのニーズから生まれたDIYなボトムアップ型の発明も少なくない。本記事では、そうしたボトムアップ型の発明にスポットライトをあてる。


持ち運びできるポータブル・フェーダー Frisk Fader

ターンテーブリズムでターンテーブルと同じくらい重要なのが、DJミキサーのクロス・フェーダーだ。それを用いて音量をコントロールすれば、スクラッチにさまざまな表情をつけられる。寸暇を惜しんでスキルアップに勤しむターンテーブリストたちのなかから、フェーダーを操るスキルを磨くための発明が誕生した。
クロス・フェーダーをDJミキサーから取り出して小型化した、ポータブル・フェーダーだ。ターンテーブリストのあいだでは、DJミキサーから取り外したフェーダーを持ち歩いて練習することがよくあった。それを実際に使えるものにしてしまおうという発想だ。2013年ごろに登場した「Frisk Fader」はその先駆け。フリスクのプラスチックケースほどの大きさで、フェーダーを備えているだけではなく、実際に音源を入力して使うことができる。当初は本物のフリスクケースをつかった手作り品だったFrisk Faderも、2014年に商品化。また、「Raiden Fader」など、他ブランドが手掛けたポータブル・フェーダーも次々と発売され、今ではターンテーブリストの定番アイテムとなっている。

HAWAII SKRATCH NERDS - Raiden Fader - Numark PT01 - Portablist

ポータブル・フェーダーが普及すると、ポータブル・レコードプレイヤーを使ったパフォーマンス、「ポータブリズム(Portablism)」がターンテーブリズムに流行しはじめたのだ。オフィス、街角、アウトドア等々、あらゆる場所がポータブリズムの舞台となった。

2016年には、DJ機器メーカーのNumarkが、自社のポータブル・ターンテーブル「PT01」に内蔵フェーダーを追加したスクラッチモデルを発売。このモデルの改造が容易だったこともあって、ギーク的な観点からも、ポータブリズムのシーンはよりいっそうの盛り上がりを見せている。


音程を変えるフレットレス・フェーダー

ターンテーブリズムのトリックのひとつに、付属のピッチ・フェーダーでレコードの再生速度を変え、音程を変化させて演奏するという手法がある。スクラッチ用のレコード「バトルブレイクス」には、このために一定の音程だけが録音された音源が収録されているものもある。

スコットランドのターンテーブリスト、John Beezが開発した「フレットレス・フェーダー(Fretless Fader)」は、このトリックを一歩未来に進める発明だ。

DJ Tech Innovations: Fretless Faders

クロス・フェーダーのかわりにとりつけたフレットレス・フェーダーを前後に動かすと、音源の再生速度を変えることができる。奥へ動かせば遅くなり、手前へ動かせば早くなる。その間も、通常のクロス・フェーダーと同じように音量の操作もできる。つまり、音量と音程を同時に片手で操作できるようになるのだ。

2011年のインタビューによると、Beezは、Vestaxが発売していた高機能なターンテーブル「Controller One」を愛用していた。このターンテーブルは備え付けのボタンを使って再生速度を変化させ、音階を操ることができたが、スクラッチをしながらボタンの操作ができない点を不満に思っていたという。当初、同社は専用のフットスイッチを開発していたが、頓挫。その知らせにBeezは、自分の手でなにか作れないかと考え、1年の構想を経てフレットレス・フェーダーを作り上げた。

2011年、インターネット上にデモンストレーションが公開されると、いちやく注目を集め、期待の発明に。当時はDJミキサーの筐体をまるごと改造したいかにもDIYな装いだったが、長い開発期間を経て、既存のDJミキサーにも取付可能な、洗練された試作品が披露されている。2017年には、待望の商品化が発表された。

近年では、Redbullの主催する3STYLESのように、使用機材の制限がゆるやかな、新しいかたちのDJプレイを取り入れた大規模な大会が開かれたり、WILD CUTSなどポータブリズムをフィーチャーしたDJ大会が開催されるようになってきた。こうした催しを通して、ポータブル・フェーダーやフレットレス・フェーダーといった新たな発明の活躍の場が広がり、ターンテーブリズムの風景が徐々に変わっていくことに期待したい。


TEXT:伊藤良平

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