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“自己救済”の外の世界にシナプスをつなぐ


ミュージシャン「小林うてな」の現在地

スティールパン奏者としてD.A.N. 、KID FRESINO (BAND SET)、蓮沼執太フィルに参加し、2018年にはJulia Shortreed、ermhoiと3名でBlack Boboiを結成。FUJI ROCK ‘19では3日間で4ステージに参加するほどの活躍をみせながら、ソロでの楽曲制作やコンポーザーとしての劇伴・広告音楽・リミックスも担う小林うてな。シンガー・楽器奏者・制作者と、あらゆる面で才能を発揮する唯一無二の存在だ。理性的かつ感性の人でもある彼女の、音楽の背景と新地点について聞く。


—ソロ・サポート、Black Boboiと、様々なかたちで活躍されていますね。それぞれの音楽の原動力について教えてください。

すべて頭の使い方が違います。ソロは自分の在処を求めて音づくりに没頭する自己救済活動。一方でサポートは、他の奏者に応える楽しさや演奏自体の身体的な喜び…と、子どもの頃の合奏で体験したようなプリミティブな充足感が得られる。そしてBlack Boboiはどちらとも異なるプロジェクト。メンバーありきで、この三人ならどんな音を鳴らすべきかを考えて曲を作ります。





—ソロにおいてはダークかつ幽玄な世界観ですね。音楽が生まれる過程とは。

架空のストーリーに音をつけていく感覚です。例えば『宮殿に幽閉された踊り子は、どこかで何かが崩れ始めていることを確かに感じている。それでも外の世界に出ることは叶わず、ただ平和を祈り踊ることしかできない』という妄想。そうした頭の中に流れるショートフィルムに音楽を乗せていくので、ポップスとして聞くには足らないところや説明しきれていないことも多いかもしれません。映像があってピースが完成する音楽です。


—確かにシネマティックなスケールを感じます。そしてマイナー(短調)でも救いがある音ですね。なぜでしょう。

悲しみを音楽の武器にしないと決めています。むき出しの悲しみはある種のバイオレンスになることもあるし、ネガティブや問題提起を受け取るのは自分自身もちょっと苦手。私の制作テーマは“希望のある受難”や“笑いながら泣く”だから短調になりがちですが、「いろいろあっても頑張って生きていこう〜!」という主旨なんです。





—ファンタジーから生まれたエレクトロなのに、人の匂いがしますね。

頭の中のショートフィルムが完全なるファンタジーではなく、主人公が自分と一心同体だからかもしれません。生きることへの泥臭い思考にはどうしても温度がありますよね。



―ソロ=自己救済という視点はどのように生まれましたか。

音楽を作っている時、その世界にいると安全地帯を感じます。サポートの楽屋でも度々そちら側にコネクトしてしまうほど、楽曲制作は私にとっての安息の地。だからこそ制作時間を意識的に制限することもありました。あまり頻繁にその世界と行き来してしまうと社会性がなくなると友人から指摘されて…「まるで幽体離脱」と言われるほど入り込んでしまう(笑)。

―社会性とは音楽の“仕事をする”ということですね。ソロを軸に仕事にしようとは思いませんでしたか。

ソロでは、作りたい曲のイメージやミックスに対する技術不足と向き合い続けてきました。制作の現実的なところに没頭していたんです。それは仕事以前の段階ですから、自分でソロを作って売れて生活していこうという発想には結びつかなかったかな。


—強い職人気質を感じます。満足いく技術があって初めて表現できるという考え方ですか。

音大時代、「表現」という言葉についてとことん考たことがあります。結果、「私は表現なんてしたくない」と思った (笑)。そのきっかけの一つは、尊敬している師匠から「どんな音量と音色なら悲しそうに聴こえるのか、それを表すタッチを身につけるべき」と言われたこと。それ以前は悲しい曲ならその気持ちになりきって弾いていましたが、心情なんて関係なしにすべては技術あってのことなのか、と目から鱗でしたし妙に納得もしたんです。「表現」って一体なんでしょうね。

—だからソロの制作を「自己表現」ではなく「自己救済」と呼ばれるんですね。

自分が気持ちよく安心していられる場所ですからね。今、楽曲制作の基準は、脳の位置が上がるような感覚が得られるかどうか。そうした曲を作らないとライブでも自分を気持ちのいいところまで引き上げられません。



—今はどんなフェーズでしょうか。

今までのようにバランスをとるより、もっと感覚的に動いてみようというタイミングです。実はそのきっかけがオンラインゲーム。最近面白みを見出して抜け出せなくなりました。ゲームって圧倒的に職人技ですし強さが正義。楽器が上手い人に出会う感覚と似ていて楽しいんです。自分をコントロールするより等身大でいる方が、予測できない発見があるものですね。

—他分野の方々に、技術者という共通項で出会ったんですね。

数十年かけて楽器を鍛錬したのと同じ現象が、ゲームの世界では数ヶ月や数年スパンで起きていました。様々な職業の人たちが仕事をする傍らに特技を持っていることを尊敬したし、自分よりも強い10歳の少年に「僕のお母さんと同じ年だ〜」と言われたりする(笑)。価値観が覆りましたね。


—世界が広がる可能性を感じていますか。

はい。30歳にもなってこんなに出来ないことがあるなんて嬉しいし、とにかく人に興味が湧いています。この前、ライブのMCで無意識に「物販にいるので、みんなに会いたいし話したいです」と言っていたんです。今までの自分では考えられない。

—最後になりますが、今後うてなさんの音楽にも変化はありそうですか。

技術的な面では、EDMの音像に衝撃を受けて以来、まだまだ勉強中ですからもちろん変化していきます。そして気持ちの面でも、新しい音楽が生まれる微かな片鱗を感じているんです。人は自分の知っている言葉や見てきたものの範囲でしか物事を感じ取れませんよね。多角的になるためには知見を広げる必要がある。例えばSNSをやっていない人たちに、どうやったら会えるのか? そんなことが大切に思えてきた今、自己救済の外側にも音楽のシナプスを繋いでみたいと思っています。


小林うてな
1989年生まれ、スティールパンやマリンバ、歌、作曲、DJなどを行なうマルチ・アーティスト。コンポーザーとして、劇伴・広告音楽・リミックスを制作。アーティストのライブサポートやレコーディングに、スティールパン奏者として参加。ソロ活動では「希望のある受難・笑いながら泣く」をテーマに楽曲を制作。2018年6月、音楽コミュニティレーベル「BINDIVIDUAL」立ち上げ。同時にermhoi、Julia Shortreedと共にBlack Boboi結成。2019年6月、Diana Chiakiと共にMIDI Provocateur始動。ライブサポートでD.A.N. 、KID FRESINO (BAND SET)に参加、蓮沼執太フィル所属。

BVdE(小林うてなさん出演予定)
2019年12月13日(金)
OPEN 17:30/START 18:00
CIRCUS TOKYO
https://wearebindividual.com/2019/11/27/185/

https://utenakobayashi.com
https://wearebindividual.com/artists/black-boboi/
Instagram: @utenakobayashi

Text: Takako Nagai [CATALDESIGN]
Photo: Eisuke Asaoka

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