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92 'Til Infinity -The street archives of THE NORTH FACE-

高峰でのクライミングにおいて最難関とされるルートに由来する名と、ヨセミテ渓谷の急峻にそびえる花崗岩の岩山、ハーフドームを模したロゴ。それこそが、今や世界中の大都市を席巻している、ザ・ノース・フェイスというブランドのサインだ。明確な出自を持つこのアウトドアブランドがストリートの洒落者たちを熱狂させ続けていることに、もはや疑いの余地はないだろう。

そんな世界的ムーブメントの一翼を担う東京の名店、The Apartmentを主宰する大橋高歩もまたユース時代にその魅力に取り憑かれ、今なお傾倒し続けるヘッズのひとりだが、その厖大なアーカイブはほぼすべてが ’90年代以降のもの。

なぜ彼はそうした偏執に至ったのか。男の蒐集譚に見る、ザ・ノース・フェイスとストリートの蜜月。


JACKET:THE NORTH FACE“NUPTSE JACKET”(vintage)
T-SHIRT:Carhartt 
OVERALL:THE NORTH FACE“ Mountain bib overall”(vintage)
SHOES:Timberland
CAP:THE NORTH FACE“Tech Cloth cap”(vintage)



JACKET:THE NORTH FACE“3D MOUNTAIN LIGHT JACKET”(vintage)
SWEATSHIRT:POLO RALPH LAUREN(vintage)
PANTS:Levi’s“SILVER TAB”(vintage)
SHOES:Timberland
CAP:POLO RALPH LAUREN(vintage)



JACKET:THE NORTH FACE“TRANS ANTARCTICA PULLOVER”(vintage)
SHOES:NIKE“Air Max 98 QS”
CAP:NO BRAND


 
 

JACKET:THE NORTH FACE“NATIONAL SKI PATROL JACKET”(vintage)
SWEATSHIRT:Champion(vintage)
OVERALL:Carhartt
SHOES:NIKE“Air Terra Humara Premium”
CAP:THE NORTH FACE(vintage)


 
 

JACKET:THE NORTH FACE“TRANS ANTARCTICA FLEECE JACKET”(vintage)
T-SHIRT : The Madbury Club
PANTS:Champion
SHOES:NIKE "Air Pegasus AT pinnacle”
CAP:NO BRAND



きっかけは、ヒップホップとの出会い

「僕にとってのノースって、基本的に’92年以降のものなんですよ」。

大橋高歩にザ・ノース・フェイスに夢中になった経緯を訪ねると、彼は開口一番こうつぶやく。このブランドが米国・カリフォルニアのノースビーチで設立されたのは1966年のこと。’70、80年代を象徴する、ブラウンのブランドロゴを冠したいわゆる“茶タグ”のプロダクトは今も世界中のヴィンテージフリークの間で支持されているが、彼の関心はそこにはない。

「何かブランドに特別な変化があったわけではないんです。ただ、’92年っていうのはヌプシが発売された年で、それまではアウトドアファッションとして捉えられてたノースがストリートで流行ったのはこのアイテムの影響が大きくて。僕自身も中学生で、ファッションに興味を持った時期でした。初めてノースを買ったのもこの頃で、最初に買ったのも黒・黄のヌプシだったと思います。あれ、マウンテンジャケットだったかな?(笑)」。

当時の彼は「今聴いたら死ぬほどダサいんですけど、あの頃はすごく格好良く感じられた」というダンス甲子園のビデオで耳にしたヘヴィ・D & ザ・ボーイズの"Now that we found love"でヒップホップに興味を持ち、友人の兄から借りたレッドマンのファーストアルバムとEPMDの4thアルバムを聴いてその熱を強めていった。

「多分、そこで明確に俺ってヒップホップが好きなんだ、と感じたんだと思います。レッドマンがキルティングのベストを着てるのを見て、カッコいいなと思ったり。決定的だったのは高校の頃にハマったブーキャン(ブート・キャンプ・クリック)ですね。自分の好きな所がどこなのか、はっきりとわかった気がします。中学の頃にはまだGファンクとかの西のヒップホップもよく聴いてて、服もギャングみたいな格好に惹かれたりしてましたね」。

そうして大橋のファッション観はヒップホップへの造詣の深まりとともに形成されていく。多くのラッパーやストリートのキッズたちがヌプシジャケットを好んで着用し始めたことも手伝って、彼にとってもザ・ノース・フェイスはその中核になっていった。そして、その偏愛は時間が経っても変わらず、現在の彼は本場USのストリートとのコネクションも得た。その上で彼が実感したのが、ザ・ノース・フェイスがストリートでここまで支持されるようになった背景にある、東海岸のヒップホップやニューヨークハードコアとの親和だ。


カルチャーとしてのザ・ノース・フェイス

「ヒップホップだと印象的だったのが、NASが『ILLMATIC』のブックレットの中や『THE WORLD IS YOURS』の12インチのジャケの写真でノースのビブを着ていたこと。ニューヨークハードコアは特にグラフィティとの関連が強かったのが大きいと思います。当時から(グラフィティの)ライターたちはマウンテンライトジャケットをよく着てましたしね」。

世界中の有力ブランドによる別注などでファッション性ばかりが先行しがちだが、その隆盛のバックグラウンドにはニューヨークのラックカルチャーに象徴される、決して安易に扱えないストリートの事情が根深く絡み合っている。多くのアイテムを現地で買い付け、コレクター同士でレアピースのトレードなども行っている大橋は、そのシリアスさを肌で感じている数少ない日本人のひとりだ。

「幸い、すごく危ない目に遭ったことは今の所無いです。ただ、そもそも匿名性の高い人たちとやり取りをしないといけないから、連絡先が全然わからなかったり、連絡が取れても約束をすっぽかされたりすることもざらでした。今はさすがにそれは無くなりましたけど、仲間を呼ばれて囲まれる危険があるから基本的にキャッシュは持っていきません」。

こうしたエピソードもまた、ザ・ノース・フェイスをストリートたらしめる一因であり、多くの名作があるこのブランドで特定のモデルに異常な支持が集まる際には往々にしてそんな情勢が関わっている。ニューヨークストリートに根ざし、背景を熟知して定番・廃番にフォーカスするシュプリームとのコラボレーションがカルト的な人気を博し、毎シーズン熾烈な争奪戦が起こるのもそれを聞けば頷けるだろう。大橋はそうした現状も踏まえてゆっくりと丁寧に言葉を紡ぐが、自身の偏愛を語っているはずの彼の顔には、どこか陰りがある。

「本当はすごくジレンマがあるんですよ。僕らは洋服屋だし、そういうエピソードも紹介していかないと面白みが伝わらないと思うんですけど、言葉にすればするほどその瞬間に消費されて、本来のカルチャーからは離れていっちゃう。僕らが好きなノースもラルフ(ローレン)も、ひとりで着てたらただの洋服でファッションだけど、それが集団になるとそこに文化が生まれる。僕らの後ろには同じカルチャーの中で生きている人たちがたくさんいて、その人たちを背中に感じながら話してるっていう気持ちがあるので、そこはすごく難しい所です。だから僕もウチの若いスタッフたちには最低限知っておかなくちゃいけないバックグラウンドやストリートマナーみたいな話しはしますけど、お客さんには話せないことがいっぱいあるんです。それがこういうカルチャーの難しい所で、面白い所でもあると思うんですけどね」。

複雑そうにつぶやく彼からは、確かにカルチャーとそれを支えてきた人々への敬意がうかがえる。ザ・ノース・フェイスのヴィンテージピースは現在も急速に高騰を続けているが、彼がそうした市場価値に惹かれて情熱を注いできたわけではないのは明らかだ。

「もう’90年代以降のものでまったく見たことのないピースに出会うことはほとんどなくなったし、だいたい持っていると思います。ただ、自分の持っているアーカイブが今後10倍の値段になろうが価値がなくなって100円になろうが、正直どうでも良いんですよ。ヴィンテージ好きな人の中には、値段が落ち着いたら良いな、って言う人もいるけど、そういう感覚も僕にはなくて。欲しいものは欲しいときに欲しい値段で買うので。価値基準を自分の外には求めないですね。むしろ、少し前までは自分が好きだから集めてるだけでこんなに価値が付くとは全然考えてませんでした。それがここ4年くらいですごく流行っちゃったから、少し寂しい気もしてます(笑)」。

ザ・ノース・フェイスは本国アメリカでは2000年に大手企業のVFコーポレーションに買収されてその傘下となって以来、よりモダンで洗練されたプロダクトの展開を増やし、それに伴い高い支持も得てきた。しかし、それは大橋の食指を動かさない。アウトドアフィールドやマウンテニアのために作られたギアをストリートにいる人々が取り入れ始めた’90年代の熱気こそが、今も昔も彼にとっては憧れと共感の対象だ。これから先、流行り廃りがどれだけ移ろいでも、彼はきっとそんな佳き時代のザ・ノース・フェイスを愛用し続けるのだろう。’92年に味わった、原体験を胸に秘めて。
 

大橋高歩(Takayuki Ohashi)
1979年生まれ、東京都板橋区出身。2009年、吉祥寺にセレクトショップ「the Apartment」をオープン。ヴィンテージから日本未展開のピースまで、自身がリアルタイムで熱中してきたニューヨークカルチャーとリンクしたアイテムを米国にて買い付け、取り扱う。長年渡米と現地の人々との交流を続けていて、Vintage Gear AddictやLO LIFEといった現地の有力クルーとも関わりが深い。スニーカーやラルフ ローレンのヴィンテージなど、その守備範囲は広いが、中でも今回フォーカスしたザ・ノース・フェイスのコレクションは量・内容ともに世界屈指のレベル。
www.the-apartment.net


the Archives from the Apartment



Down Mountain Guide Jacket
 
USでは2012年に、日本では昨年に復刻版がリリースされ、各地で完売が相次いだ人気作“マウンテンダウンジャケット”のベースがこのモデル。“マウンテンジャケット”、“マウンテンガイドジャケット”などに続く後発モデルとして’90年代後半に発売された。シェルの内側にはダウンがパンパンに詰まっているため保温性は高く、デザインも今見てもまったく古さを感じさせない。
「数は少ないですが、今もたまにヴィンテージでは出てくるモデル。2000年代にリリースされたマクマードパーカと似た位置付けだと思っています。この色は“マンゴー”という名前で、特定の時期にだけ展開されたカラー。ノースには“ペルシアンオレンジ”とか“レスキューオレンジ”とか、一口にオレンジと言っても色々な種類があるんですが、この“マンゴー”は常に人気です」。


“SEARCH & RESCUE”HIGH ANGLE JACKET


その名の通り、雪山で遭難した人々の救助に当たる際に着用されていた、専門性の高いライン。このハードシェルは脇下部分にケブラーという、防弾チョッキなどにも使われる素材を使用したタフな仕様だ。
「“レモン”というイエローなんですが、同じ色の名称でも3〜4色違うものがあります。“サーチアンドレスキュー”だけでなく、“RTG”や他のラインでもそうですが、パッチが付いているものを探すコレクターは多いです。高価なもの、特別なものを着てることをロゴやパッチで主張したいっていう、スワッギーな考え方がその主な理由だと思います」。


“RTG”HYDRATION VEST

今でも展開されている“RTG”はRemote Terrain Gearを略したもので、本来はバックカントリーなど、ゲレンデ外でのスノーボードのために生まれたライン。特に’90年代の後半に展開されていたこのロゴのシリーズがヴィンテージマーケットでは人気。このベストは同ラインのアウターの上にそのまま装着できるZip Out Zip・通称“ZOZ(ゾズ)システム”を採用し、背面にはハイドレーションタンクを備えているため、専用のホースを使って歩行しながら水分補給ができる仕組み。
「’90年代の“RTG”のアイテムはプロテクターが入ったハードな作りのものが多いんですが、このベスト自体にも身体保護の役割があります。本来はジャケットの機能を拡張するためのものですが、ヴィンテージノースのファンにはこのギアっぽさがウケていて、単独でも人気が高いです」。


TRANS ANTARCTICA EXPEDITION PARKA
 
1889年から1990年にかけて行われた犬ゾリによる南極大陸横断の際に作られた専用のギアシリーズの中の1アイテム。横断隊は6ヶ国から選出されたスペシャリストで結成され、胸元にはその参加国の国旗が並んだワッペンを備えている。このブルーは“ターコイズ”と呼ばれ、他には“マンゴー”と呼ばれるオレンジや“グレープ”と呼ばれるパープルがある。先のヴィジュアルでも登場した同様のプルオーバーモデルなどに比べると希少性はやや下がるが、それでもオリジナルピースは現物を拝むことすらかなり困難。
「ノースのレアモデルはマニアしか知らないようなものも多い中で、日本ではブランドの40周年記念でマウンテンジャケットにカラーとパッチを落とし込み復刻されたこのシリーズは一般的にも知られていて、その分値段も高くなりやすいです」。


TONAR JACKET

発色の良い独特のカラーブロックと複雑な切り替えが特徴のこのピースは’89年にスノーボーダー、ジム・ゼラースをパートナーに迎えて作られたモデル。元々は黎明期のスノーボード用ウェアシリーズで、この他にもかなり奇抜な配色のモデルが見られ、アノラックタイプやパンツ、フリースにオールインワンなども存在する。
「ノースのスノーボードウェアも’90年代後半の“RTG”などになるとストリートのニーズもあってアースカラーのものを多く作るようになるので、この派手な色使いには時代性を感じます。初期のモデルはサイズ感がタイトだったり、保護用のパッドが入っていたりと、“RTG”とはまた違う面白さがあります。日本では10年くらい前に少し仕様を変えて、“レイジジャケット”という名称で復刻されています」。


“VAPORWICK”T-SHIRTS

アウトドアギアが本領のザ・ノース・フェイスだけに、スタンダードなTシャツは実はヴィンテージ市場では希少なアイテムのひとつ。他社製のコットンボディにグラフィックをプリントしただけのものなども存在するが、こちらはポリエステル生地を使って速乾性などを高め、ベースレイヤーとしての機能性を高めたシリーズの一枚。
「ノースはあまりグラフィックの良いTシャツが少ないんですが、これは昇華転写のようなプリントも面白いし、サイズ感も大きめで今でも取り入れやすいと思います。ノースは夏と冬のラインがそれぞれあって、冬場は派手な原色が多いのに対して、こういう夏物はなぜか中間色が多いので、ファンの中でも好き嫌いが分かれます」。


Nuptse Summit Jacket
 
定番のヌプシジャケットのアップデート版と言うべきアイテムで、去る秋冬にシュプリームが別注したのも、すでに廃番となっていたこのモデル。ゴアドライロフト®を採用したことで、それまでのダウンの大敵だった水濡れによる保温力低下を防いでいる。
「’90年代の代表的なダウンジャケットのグレードで言うと一番上にヒマラヤンパーカがあって、その下にバルトロジャケット、このヌプシサミットジャケット、ヌプシジャケットという順で続きます。フードは襟の内側に収納できるようになっています」。


ASCENT JACKET

ヌプシジャケットが普及して偽物も出回るようになり、人気も落ち着いてきた’90年代後半に登場したダウンジャケット。坂道を意味するその名は傾斜のついた畝が由来で、Zip In Zip、通称“ZIZ(ジズ)システム”という、ハードシェルの内側に装着することでライニングになる機構になっている。使用しているダウンはヌプシジャケットよりもやや低い600フィルパワー。
「ノースに限らず、ブランド自体の勢いが弱まった時代はアイテムに入るロゴが小さくなりがちですね。アセントは個人的にはずっと好きなアイテムだったけど、当時はダサいというイメージをみんな持っていた気がします。だけど、今はまたフレッシュに見えるタイミングだと思います」。


“HELI 10th Mountain Parka & HELI High Camp VEST

ヘリコプタースキー用のジャケット。高山での防寒や身体保護を前提にしているため雪が入りにくい長めの着丈になっていて、歩きやすいショート丈が多い登山用カテゴリのものに比べてストリートでも取り入れやすい。ZOZシステムを採用していて、ジャケットとベストが連結したのがこの状態。
「ニューヨークでもエリアごとにノースが好きなクルーがあって、日本人がSNSで最近目にする機会が多いのはブロンクスの人たちだと思います。彼らは土地柄から地味なカラーのレギュラーモデルを好んで着ていますが、よりヴィンテージギアやグラフィティの要素が強いクイーンズの人たちにはこのシリーズは人気があります。重いし、着づらいんですけどね」。


STEEP TECH WORK JACKET

やはりシュプリームとの過去のコラボレーションの際に復刻されているスキーカテゴリーのジャケット。エクストリームスキーの第一人者、スコット・シュミットが共同開発者として関わっていて、フロントに2列のジップが走る独特のデザインはポロ スポーツなどでもサンプリングされている。
「登場したのは’90年代の初頭です。ウータン・クランのメソッドマンのMVで取り巻きの連中が着ていたり、’90年代中頃にはロード・タリ-ク&ピーター・ガンズが、後半にはスケーターのハロルド・ハンターが着ているのを見かけたことがあります。単純にゴツくて威張りの効くデザインですし、2000年代に復刻された際にもニューヨークのヘッズたちがこぞって着ていましたね」。



Photograph:TETSUO KASHIWADA
Styling:the Apartment
Model:SHOHEI KAMBA(BARK in STYLe)
Text&Edit:RUI KONNO

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