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Saori Ohwadaのボタニカルライフ

2年前の冬、阿佐ヶ谷のとある邸宅の外壁に、樹木と動物のArtが誕生した。その絵を前にふと足を止めると、どこかその場所に昔からあったかのような、不思議な感覚に陥った――。


その作品の生みの親・Saori Ohwadaは、植物や樹木をメインに描くアーティスト。

植物画のほかにも壁画や表札に描く「樹表札」など、オーダーに応じて作品を制作。また、定期的に個展の開催やグループ展への参加など、さまざまな形で自身のArtを表現している。

「阿佐ヶ谷のお宅の外壁に絵を描かせて頂いた時は、動物を描くアーティストと 2 人での制作。街に溶け込むような動物たちと、庭の立派な桜の樹と外壁の絵が一体化して見えるように描き上げました。外壁ということもあり、天候に左右されて思うように描き進めることができない時期があった中、歩く足を止めて見てくれたり、応援してくれたり、ホットコーヒーやホッカイロを差し入れしてくれたりと、貴重な経験ができました」

Saori Ohwadaは24歳の時に上京し、絵描きとしての活動をスタート。それまではグラフィックデザイナーをしていたが、東京で絵描きの先輩たちのアートワークのカッコ良さを目の当たりにして衝撃を受けたという。でも当時は何が描きたいのかわからない、何を描いても楽しくない――そんな日々。彼女に転機が訪れたのは、奇しくも自身の体調不良からだった。

「25 歳の時に1ヵ月間入院することになり、その時に改めて命の大切さに気付くことができました。そして、風で揺らめく樹木や太陽の光でキラキラと輝く植物ばかりカメラで撮っている自分がいたんです。今まで意識してこなかった樹木や植物が素晴らしく美しいものに見え、軽い気持ちでスケッチを描いてみたらすごく楽しくて。その時に私の絵描きとしてのメインモチーフは決まりました」


樹木の年輪や植物の葉脈まで緻密に描かれた作品。なおかつそれが機械的なデッサンではなく、自然界に生きるものが本来持つ“温かみ”を宿して描かれているのが魅力だ。

主に画材はアクリル絵の具とボタニカルアート専用の用紙を使う。アクリル絵の具は「混色の作りやすさもありますが、重ねれば重ねるほど色に深みが出るのが好き。光の反射や見方によって色合いも異なるため、自分なりに絵の具を組み合わせて色を表現するのが楽しい」と彼女は語る。また、アクリル絵の具の中でも仕上がりがマットな質感になるアクリルガッシュ絵の具を使用。絵に温かみが生まれ、植物が持つ質感や空気感を表現しやすいからだという。


4 年ほど前からは、自身で植物を育てるようにもなった。インプットとアウトプット、どちらも両立した文字通りの“ボタニカルライフ”を送っている。

「最初はハーブを育てていて、他にもローズマリー、イタリアンパセリ、バジルなどを料理によく使っていました。そして多肉植物やサボテン、摩訶不思議な形の植物の存在を知ってからは一気に虜に。育ちの異なる植物が一番適している環境をどう作ってあげるか……そこに苦戦しましたね。ただ日々植物を観察していくうちに、ちょっとずつ理解できるようになりました。 自宅での制作はどうしても引きこもりがちなので、なるべく庭に出て植物たちを観察するようにしています。自分にとって癒しをもらえるとても大事な時間ですね」


植物への想いはやがて世界へも広がり、これまでアメリカ、カナダ、タイ、台湾などさまざまな場所へ旅に出た。

「注意深く見ているのは街路樹や街中でたくましく育っている植物。国によって道端に育つ植物が珍しかったり、日本ではあり得ない植物が平然と育っていたりする。いつか世界中の街路樹や道端の植物だけを集めた本を作ってみたいですね。まだまだ会いに行きたい樹木や植物がたくさんあるので、世界中の巨樹や植物の自生地に行きたいです」


植物の新たな一面に出会い、インスピレーションを得て、作品を生み出す。「例えば木材の端材を集め、アートワークを落とし込んで展示することで、作品としてたくさんの人に見てもらえるようになる。あとは植物や樹木が育たない環境の場所で、実寸大の絵を壁に描くことで、少しでも人々が身近に感じることができるかもしれない。そういったアイディアを常にイメージして、具現化する工程が一番楽しい」と彼女は胸躍らせる。

地球上には、一般的に約30万種の植物と約6万種の樹木が存在しているという。ただし、それは人類が確認できている数。つまり実際は、それ以上の“名の無い植物や樹木”が今この瞬間も生きている。インスピレーションの源は無限大――Saori OhwadaのArtとボタニカルライフは、まだまだ始まったばかりなのかもしれない。


TEXT:ラスカル(NaNo.works
PHOTO:Saori Ohwada

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