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自転車冒険家小口良平の合理化と対局の装備

157ヵ国、155,502km――約8年半もの年月をかけて、自転車で地球一周という壮絶なチャレンジを成し遂げた男がいる。

その男の名は、小口良平。

幼少期から自分に自信が持てず自己嫌悪の固まりだった彼は、大学卒業直後のチベット旅行で人種の多様性に衝撃を受け、世界を旅することを決意。建設会社のサラリーマンとして約4年で800万円を貯め、2007年、自転車旅をスタートした。

日本一周から始まり世界へ飛び出してからは、オセアニア、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、南北アメリカへ。そして2016年9月25日、ニューヨーク・タイムズスクエアのきらびやかなコカ・コーラ社のネオン看板の下で、彼は地球一周旅のゴールを迎えた。

彼の訪問国数、走破距離は日本歴代一位。その数字は、常人には想像することすら難しい。それも彼は、自転車というアナログなアイテムを使い、人力によるチャレンジで達成したのだ。旅の相棒となった自転車は計3台。2台は事故で使えなくなり、最終的にSURLYというメーカーの「LONG HAUL TRUCKER」で世界を走った。自転車というアイテムは、人力で道を走り、国境を越えられるということ以外にも、旅におけるさまざまなメリットがあるという。

「車のスピードでは速すぎる。歩くスピードでは157もの国を回ることはできない。自転車ならばその両方の良さを感じながら、かつ走り出せば自分だけの世界を作るスピードを持てる。あと世界を走って感じたのは、『多くの人は頑張っている人を応援したい』ということ。自転車に乗っているだけで、世界中の人たちが優しくしてくれた。自然と出会いを作ってくれるアイテムが自転車。人見知りの人には最適だと思う」(小口)


旅を通じてパンクした回数は110回、タイヤの交換は20本、チェーンの交換は28本……。自転車のメンテナンスはもちろん、あらゆる環境・状況に対応するため、旅にはさまざまな道具が必要になる。

「旅の当初、荷物は60kgぐらい。いるかいらないか迷ったら、全て持っていった。でも一年くらいして旅に慣れてくると、自分が一日に進める距離や、食料や水のストックすべき量もわかり、そうするとどんどん荷物が減って40kgになった」(小口)

ただし、さらに旅を進めるうちに、彼は必要なものだけでなく、“楽しむ”ために必要なものを持つようになった。彼はそれを、『旅の快適性よりも快楽性を求めた』と語る。

「趣味となる読書のための書籍が最大で44冊。あとは、コーヒーベルト地帯で手に入るコーヒー豆で煎りたてを楽しむためのミルとエスプレッソマシーンを持ち、身体のメンテナンスをするためのヨガマットも常備した」(小口)


旅での経験を経て、持ち物をただ減らすだけでなく、より深い意味で自分に必要なものを持つ。中でも、彼の旅におけるこだわりのアイテムは日本国旗。

「旅の当初、日本国旗を持つことはできなかった。日本人だとバレたら、強盗や誘拐に遭うと思ったから。ただ、実際に日本人であることを現地の人たちに言うと、彼らの目からは安堵と賞賛の眼差しが向けられた。先人が築いてくれた“ジャパニーズブランド”のおかげだと思う。それからは堂々と日本代表であることを示すために、日本国旗を掲げた。僕が無事に日本へ帰ってこられたのは、運が良かっただけではないと思う」(小口)


もう一つ、彼にとってなくてはならない持ち物が「サインTシャツ」だ。

「旅を続けていると非日常が日常となり、単調な毎日に飽きがくる。そんな時に、僕のモチベーションを維持してくれたのが、旅で出会った人たちにメッセージを書いてもらったサインTシャツ。『ニュージーランドの自転車屋のガスに、世界一周できなかったってがっかりさせたくないな……』『香港で出会った美人のアースターに、世界一周したんだよって言ったら、デートできるかもしれないな……』なんて想像しながら、みんなの顔を思い出してはニヤニヤしていた。最終的にTシャツは50枚を超えた。バックの中には、荷物以上に出会った人々の想いが詰まっている。それはプレッシャーのような重さではなく、むしろ追い風となる重さだった」


何を持ち、持たないか。必需品としての持ち物へのこだわりからスタートし、最終的にその持ち物が、彼の旅の過程やスタイル、メッセージなどを浮かび上がらせている。

「こだわりとは、合理化とは対極にあるものだと思う。そこには物質の質量では計り知れない価値という重さがある。旅において、装備や食料、アプローチまでこれだけ進化していると、現代の冒険家に求められるものは、技術ではなく表現力なのかもしれない。西アフリカのファッションではないオフグリッドやミニマリズムの生き方からも影響は受けた。僕の持ち物は、『それを手に入れたことで、どれだけ周りの人を幸せにできるか』が基準となっている」。

TEXT BY:ラスカル(NaNo.works
PHOTO BY:小口良平

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