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fuzkueオーナーが語る読書の引力(後編)

読書のときにどんな音楽をかけるかは難しい問題だ。ラテンアメリカ文学の魅力について話してもらった前編に引き続き、今回も「fuzkue(フヅクエ)」オーナーの阿久津隆氏に話を聞いた。本を読む人にとって、居心地のよい空間を追求し続ける彼も、「音についてはまだ正解が見えていないんです」と言う。

— 読書にフィットする音楽とは?


フヅクエは、快適な読書環境を提供するために、音に関してはことのほか気を使っていて、基本的に一切の会話を禁じている。阿久津氏自身、自宅で読書をする際は基本的に無音だというが、人と場を共有するお店では完全な静寂はかえって気を使うもの。ページをめくる音など自然に生じる音もあるが、店内でかける音楽のセレクトやボリュームの設定も含め、それらが「気にならない状態」を作るためにチューンアップを重ねている。

「新井薬師前の『ロンパーチッチ』というお店が好きでたまに行くんですけど、『コーヒーお酒ジャズのお店』で、そこではジャズが大きな音でかかってて、音の中に籠もれるような感じが気持ちよくて。音で幕を作るということでいえば、これくらい大きい方がいいのかな、とか。席によっても聴こえ方が違ってくるし、これからも試行錯誤ですね」

そんなフヅクエで日々かけている音楽を一言であらわすと、言葉や、明確なビート、強いメロディがある楽曲を避けた、「できるだけ意味が入ってこないもの」に集約されるとのこと。普段フヅクエでかけている音楽から、阿久津氏のお気に入りを3曲セレクトしてもらった。読書のみならず、なにかに集中したいときにぴったりの音楽を選ぶヒントになるかもしれない。



畠山地平『Norma』

「フヅクエでもっともよくかけているのが、畠山地平の音楽だと思います。アンビエントやドローンでも、静かすぎたり、動きがなさすぎるものもあるんですけど、ほどよくキラキラしてて、カラフルで明るい感じがして、この店に一番フィットするなと。畠山地平は、10枚以上のアルバムがお店でかけるプレイリストに入ってますが、このアルバムが最初に聴いた1枚ということで印象的です」



Le Berger『Music For Guitar & Patience』


「まずジャケットがとても好きなので、たぶんジャケットの印象に完全に引っ張られてるんですが、ドローンはドローンでも、人間臭さや土っぽさみたいなものがすごくある、揺らぎ感が好きです。これも畠山地平と同じく、暗すぎず、重すぎず、みたいな感じがちょうどいいですね」



Peter Broderick『Hello to Nils』

「基本的にはボーカルがある曲も、アブストラクトな感じのものを選んでるんですけど、ピーター・ブロデリックだけは、このシンプルな弾き語りの曲をかけていて。なぜかというと、眠気覚ましです(笑)。もちろん曲自体が大好きなんですけど、ドローンだけだと、お客さんが眠くなりすぎるかもしれないので「起こしてあげよう」みたいな気持ちでかけています」




最後に、「今回のテーマとはずれてしまうかもしれませんが」と前置きしつつ教えてくれた2曲もナイスな選曲だったので、あわせて紹介したい。静かな時間が流れるフヅクエの裏側で、阿久津氏自身の頭のなかで通奏低音のように流れている曲なのだそう。

C.O.S.A.×KID FRESINO『Swing at somewhere feat. コトリンゴ (Prod by jjj)』

「リリースされてからずっと聴き続けているのがC.O.S.A.×KID FRESINOのアルバム『Somewhere』で、なかでも特に好きなのがこの曲です。《勤勉で、できるかぎり善良で、気遣いのある人たちは踊ってくれ》《仲間以外に回す愛は持ち合わせない》というC.O.S.A.のリリックは、フヅクエというお店の気分をあらわしているなあと思っています。ナイスな時間を過ごしたいぞと思って来てくださった人にだけこの店は愛を向けられるだろうし、そういう人はどうか気が済むまで、存分に踊っていってくれという、そんな気分で店に立っていますね」



Talking Heads 『This must be the place』

「この曲のタイトルのように『こここそがまさにその場所だわ』と、1人の静かな読書の時間を求めてやってきたお客さんたちに思ってもらえるような場所でありたいですね。特にトーキング・ヘッズの映画『Stop Making Sense』のライブシーンが大好きで。デヴィッド・バーンの動きやコーラスガールのゆるゆるした空気とかが最高なんです。このステージ上のメンバーたちみたいな、リラックスした時間を過ごしてもらいたいものだなあという曲です」



TEXT: Yuri Matsui
PHOTO: Ryuichi Taniura

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