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負荷をかけて自分を滲み出させる、写真家・池野詩織が感じる「撮ること」の楽しさ

フィルムカメラを選び、夜や雨の状況下で撮影を好む理由

あいみょんやGEZANなど時代を代表するアーティストのいまを切り取り、今秋のNIKEやEDWINといった世界的なブランドとのコラボレーションも記憶に新しい、写真家・池野詩織。2018年に刊行した写真集『ORB(オーヴ)』で自身が長年感じてきた日常のちょっとした違和感を1冊にまとめあげた彼女は、フィルムカメラ越しにいまなにを考えているのか。オリンピックに向け着々と準備が進む東京で暮らし、近年は各国のアートブックフェアに通う彼女は、加速度的に変化し続ける世界でいまなにを撮りたいのか。彼女の頭のなかを覗いた。


ー作品集『Angel Shadow / Spring Devil』に「令和」の文字が写ってますね。タイトルも目を引きます。

『Angel Shadow / Spring Devil』は「令和」の文字も写ってるとおり、いちばん最近の作品集です。二部作として上海のアートブックフェアで出しました。ZINEをつくるとき、ふだんはフィルムカメラで撮ったのものとごちゃ混ぜにするんですけど、これは全部iPhoneで撮ってて。すこしふざけた感じのZINEなんです。タイトルはそのときに考えてつけることが多くて、意味が一見離れてる言葉をくっつけるのが好き。『Devil Shadow / Spring Angel』だったらダサくないですか? ただのわたしの手癖ですかね(笑)。


ーなんとなくわかるような気がします(笑)。昨年に発売された写真集『ORB』では、なぜ「オーヴ」に焦点を当てて撮ろうと思ったのでしょうか?

じつは「オーヴ」というものを撮ろうとして撮ったんではないんです。ちょっと前から自分のなかで「オーヴ」というキーワードはピンときてて。最初の1枚がどれかとかははっきりしてないんですが、撮影していくなかで偶然撮れた変な写真がきっかけになりました。たとえば、カメラのカバーが開かなくなっちゃって撮れたものがあったりとか、水滴にストロボが乱反射して撮れた写真とか。思ったように撮れていない面白さに気づいて。どの写真も日常のある一瞬だけど、SF的な瞬間に立ち会っちゃっているようにも見える。それがどういうことなんだろうと思いながら、5年くらいかけて日々撮り集めたスナップを中心に『ORB』としてまとめました。自分がイメージしたようには撮れていなかったバグみたいなものなんです。


ー雨粒もまるでなにかの発光体のようにも見えますね。光に関連すると、池野さんが雑誌やCDジャケットなどで撮影されている写真も、光と影のコントラストが『ORB』同様に魅力的ですよね。

ありがとうございます。わたし、夜の撮影が好きなんですよ。なので、ふだんから懐中電灯持ち歩いてます。今日も……。(カバンから懐中電灯を取り出して点ける。めちゃめちゃ眩しい) お仕事の撮影でもよく使う、ドンキでいちばん明るい懐中電灯。ふつうの照明より明るいでしょ? 光を当てることでそのものが発光してるように見えたり、雨が降ったときなんかはいろいろな反射が起こるので面白いんですよ。表現の幅も光と影のニュアンスによって広がる気がしてて。赤い服に当てると、って誰も赤着てない……。


ーすみません(笑)。夜の撮影はコンディションが整っていない分、思ったように撮れなくないですか。

太陽の下で撮ればその人自身がそのまま写るんですけど、夜みたいにある種危うい環境で撮れば自分が思っていないような写り方をします。その偶然性が楽しいんです。もちろん、お仕事では思ったように撮りたい。その一方で、自分を裏切ってくれるようなカットも起きてほしいなと。それは負荷や制限のもと、ストラグルする面白さから出てくるものだと思ってます。自由に息するように撮るスナップとは別のもの。しかも、なにかしら負荷があって撮れたものには自分の歪みみたいなものが絶対滲み出てくるので。それをどのくらい出せるかだと思ってます。


ーなるほど、池野さんがフィルムカメラを愛用して写真を撮り続ける理由にもつながっていくようにも思えました。

フィルムだとその場で確認できないから信じ切っちゃってるところがあって。誤解してると永遠に誤解したままなのが面白い。デジカメだと「あ、暗い」と思ったら明るくしたりと訂正癖がついてしまいます。それに、フィルムは焼き付けて実物として存在するけど、デジカメは水にポチャンと落ちたら終わるから怖い。「物質」と「記号」といった感じの違いですかね。でも、デジタルの写真が嫌いなわけじゃないです。自分もうまくなりたいとは思うんですけど、全然使ってなかったらどこかに置いてきちゃった(笑)。なので、いまはフィルムとiPhoneですね。ただ、iPhoneもまた感覚が違って、記録的に撮ってます。


ーiPhoneで撮った、帽子がビリビリのおじさんの写真(『Angel Shadow / Spring Devil』収録)からは池野さんの温かな眼差しが感じ取れました。

ダメージ帽子がすごすぎますよね。このおじさんがバスで目の前にいたときは「やばい!」と思って撮ったんですよ。「これ、きっとお気に入りなんだろうな」と思ったら、もう手が震えちゃって。フィルムではうまく撮れてなかった。ほかの写真もそうなんですけど、シャッターを切るものには全部愛情を感じて撮ってます。


ー日頃からこういった人を見つけるアンテナの感度がすごいですね。これから挑戦したいことはありますか?

ブックフェアで各国に訪れてみて、アメリカなどももちろん面白かったのですが、特に中国の若い子たちのエネルギーに圧倒されたんです。日本よりも制限の強い環境の中で負けることなくクオリティの高いものを生み出していて、センスもいい。たくさんの刺激を受けました。他国で暮らすことへの憧れもずっとありましたが、改めて自分が日本人だからこそ撮れている写真があるということに自覚的になりました。今はまだ東京で作品を作り続ける必要があると再認識しています。

ー池野さんが写す中国、ぜひ見てみたいです。最後に、今年もあとすこしですが、2020年の意気込みを聞かせてください。

オリンピックがきますね。オリンピック自体には興味もないし不安だらけですが、エスケープせず、いましか見れないオリンピックの東京をちゃんと見つめようと思います。写真家ですし。 それに自分がいま生きているのは東京なので、いろいろと変化していく過渡期に東京でどういう作品を残せるのか。その点はちょっと意識していようと思います。


池野詩織
1991年生まれ。2012年より写真家として活動開始。2018年にcommune Pressより写真集『オーヴ』をリリース。あいみょん『今夜このまま』、GEZAN『Silence Will Speak』ジャケット写真、UNDERCOVERのルック撮影なども手がける。ファッション、コマーシャル、ミュージック、アートなどあらゆるシーンを縦横無尽に駆け回り、自由奔放な個性に起因した熱のある作品で高い評価を得ている。

https://ikenoshiori.tumblr.com/
Instagram:@ikenoshiori

Text:Yoshinori Araki
Photo:Koichiro Iwamoto

Venue:宇田川カフェ Suite
https://www.udagawacafe.com/suite/


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