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スケートボードブランドに学ぶステッカーの美学

2020年の夏季オリンピック競技にも選出され注目が集まるスケートボードシーン。他の多くのスポーツと違い、4つの車輪が付いた木の板に乗り、トリックと呼ばれる技を繰り出しその難易度の高さや芸術性、スタイルを競うこの競技を多くの人はスポーツではなく、ファッションやアートをも巻き込んだ豊潤なストリートカルチャーだと認識している。特にビジュアルやアート面の豊かさはスケートボードの板に施された個性溢れるグラフィックに目を向ければ容易に理解出来るだろう。そしてそれはスケートボードメーカーが販売や配布をするステッカーについても同じ事が言える。

スケートボード以外のジャンル、例えば音楽アーティストや服飾メーカーなどにとっても、ショップ名やアーティスト名が施されたステッカーは顧客に対する手軽なアピール方法として、Tシャツやトートバッグ、缶バッジやマグカップなどと並んで非常にポピュラーである。インターネットによる個人発信の時代を迎えた近年では誰もが簡単にステッカーを作り、自身の作った音楽やプロダクトを宣伝する助けとしている。

そんな時代の流れの中で忘れ去られてしまいそうであるが、スケートボードメーカーが作るステッカーのクオリティーの高さ、中でもアメリカのスケートカンパニーが作るステッカーの品質は特筆すべきものがある。スケートボードに貼る事を前提として作られたステッカーは多少の擦れにも耐え、長時間太陽の光を浴びても劣化しにくい堅牢性を持っていることが多い。その印刷には様々な方法があるが、特にクオリティが高いものは、”シルクスクリーン”という、非常にアナログで、今となっては古臭く、非効率的な方法で製造される。


魅力の秘密は印刷方法による仕上がりの差

Tシャツにプリントをする時に用いられる他、アンディ・ウォーホールがポスター作品を制作する際にも用いられ、単なる工業印刷手法としてでなくアート技法としても広く認知されるようになったシルクスクリーン印刷。しかしそれがステッカーを制作する時にも用いられるというのはあまり知られていない事実だと思う。シルクスクリーンで印刷されたステッカーが他の印刷方法のものと大きく違うのは、ズバ抜けた発色の良さと、指で触れた時に分かるその立体感である。

それ以外の印刷方法では、オフセット印刷や凸版印刷があるが、これらの方法もシルクスクリーンに次ぐ発色の良さを持ちながら、より精密な図案の再現が出来るメリットがあり、これはこれで趣きのあるクオリティーに仕上がる。デザインやベースの紙質によっても適する印刷方法は変わってくるし、さらにコーティング方法の違いによっても多種多様の表情を生み出す。

たいていの場合、上記に挙げた印刷方法に対して見劣りしてしまうのはインクジェットプリント機を使ったデジタルプリントである。デジタルプリントは印刷版を作る必要が無い事や比較的小さな設備で小回りが利き、少ない数量でも安価に制作出来る事から近年急速に広まった印刷方法である。オンデマンドプリントとも呼ばれる。

デジタルプリントとシルクスクリーンプリントのステッカーをよく見比べると、発色の良さに歴然とした違いがあるほか、盛られているインクの厚さがまるで違う事に気が付く。シルクスクリーンの方は黒い部分を最後にブ厚く刷るためにその部分だけがこんもりと盛り上がり、その上から乗せられるラミネート加工も相まって生み出される起伏と表情の豊かさ、光沢の微妙な差異、レトロな製法ならではのムラ感がある。それらが手のひらに乗るこの小さく薄っぺらい物体の中に詰め込まれていることに、ふと感動を覚えることがある。幼少期からシール好きだった私は、初めてスケートブランドの何百円かするステッカーを手に入れた時、その印刷物としての美しさに見惚れ、いつまでも眺めているばかりで勿体無くてどこにも貼る事が出来なかった。

ブランドごとのこだわりにフォーカスオン


スケートボードアートの中で最も有名なモチーフのひとつ、SANTA CRUZのスクリーミングハンド。透明PET素材にシルクスクリーンで白、黒、赤、青の4版印刷。ブルー部分の圧倒的な発色が素晴らしい。インクの色ごとの微妙な光沢感の違いも味わい深い。


POWELL PERALTA。シルク特色使い6版表現。線画の密度と限られた特色で表現される緻密なグラフィックに描き手の職人技を感じる1枚。黒インクの部分が厚く盛られ、凹凸感がリッチな風合いを生んでいる。


C.E。かなり小さなステッカーだが拘りが詰まっている。上のものはグリーン部分にマットな蛍光インク、紺色の部分はシリコンのような粘つきと光沢がある。しかもグリーン部分をよく見るとほんの少しだけノイズのようにネイビーの点描が入っており、ラメを振り撒いたような風合いに。左下のものはイエローに見えている部分が透明になっている。内側に透明部分を持ってくるというアイデア。


SUPREME。スケートボードカンパニーをハイエンドなストリートファッションの領域まで高めた重鎮ブランドはステッカーのバリエーションもクオリティも圧巻。左は透明PETに白色で下刷りした上に3色分解+特色1色と面積の大きな黒版を乗せ、全体を光沢ラミネート。重厚感があり異様なインパクト。右側は光沢ラミネート無しの4色シルク。女性の顔部分は唇と同じ赤色を細かい網点模様で表現されている。

勿体無くて貼れなくなってしまうようなやつを

ノートパソコンのディスプレイの裏側がステッカーの主な貼り付けスペースとしてその四角くソリッドな表面を剥き出しに待ち構えるこの時代において、今一度、エクストリームな環境に耐えるタフで暖かみのある昔ながらの製法のステッカーの良さを伝えたく、こんな記事を書いてみた。

ステッカーは印刷技術だけでなく紙質やコーティング方法なども種類が豊富で非常に奥が深い。もしステッカーを作る時は印刷業者と密に相談して拘りの逸品を世に送り出してくれることをステッカー愛好者の端くれとして切に願う今日この頃である。そう、勿体無くて貼れなくなってしまうようなやつを。

TEXT: フカーツ

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