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刷るART ―シルクスクリーンの世界

初めて彼の作品を見たのは街。メッセンジャーの仕事中、赤坂見附の交差点で彼は信号待ちをしていた。自転車のフレームはアマゾンの爬虫類のような赤×緑で全面がプリントされ、背負うメッセンジャーバッグも全面プリント、こちらはモノトーンだった。その異形な出で立ちに、僕は信号が青に変わるまでの間、食い入るように彼の後ろ姿を眺めていたのを覚えている。それがシルクスクリーンアーティスト“ボギー”こと、はぎやまたかひろとの出会いだった。


ボギーとは、はぎやまたかひろのメッセンジャーネーム。かつての彼はメッセンジャーの仕事をしながら、それ以外の時間でシルクスクリーンという手法を通してさまざまな作品を残してきた。Tシャツや手ぬぐい、ポスター、フライヤーなどを始め、上述の自転車やメッセンジャーバッグ、さらには後輩の家のカーテンまで、あらゆるものに刷り倒してきた。

定期的に自身の個展も開催するなど、アート界隈では知る人ぞ知る存在であり、メッセンジャーにとっては彼の作品を所有することがひとつのステータスのようなイメージがあった。


そんな彼が“シルクスクリーン”という言葉を知ったのは中学生の頃。

「技法の名を知ったのは中学の美術の授業かな。多分アンディ・ウォーホルだったと思う。それから横尾忠則、粟津潔、60、70年代の音楽や演劇などさまざまなポスターを通って、初めて体験したのが専門学校の授業。本番のプリントよりも写真製版で使うフィルムを作るほうが楽しくてハマっていた。その当時欲しいブランドのTシャツがあったんだけど、高くて買えないから作ればいいって友だちとお金を出し合って“Tシャツくん”を購入した。今思うとTシャツを買った方が安いんだけどね。でもそこからシルクスクリーンにハマった」

プリント時に使用するスキージは固さがさまざまあり、何にプリントするか、何のインクを使うかで選択。最近はオールマイティな緑とエッジの効いた固めの青を好んで使用するという。


現在はメッセンジャーの仕事からは身を引き、シルクスクリーンアーティストとして活動している。そんな彼にシルクスクリーンを続ける理由を聞くと……。

「シルクスクリーンをフリーで生業としている人とあまり出会ったことがないけど、多分刷る行為自体を好きな人が多いんじゃないかな。布、紙、キャンバス、金属、ガラス、木材……平面ならば何にでもプリントできる、ほかの版画技法にはない自由さと、刷る行為に至るまでの段取りにどうしても時間を費やさざるをえないもどかしさ。それらがバチッとハマってうまく刷れた時はいまだにうれしいね」

これまでに印象に残っている展示やイベントについて聞くと、メッセンジャーシーンに多大な影響を与えた「KyotoLOCO」というイベントの2008年を挙げた(知らない人も多いと思うので、YouTubeもしくはvimeoでKYOTO LOCO ‘08を検索してみてほしい)。

「(京都大学)西武講堂の真ん中にあるステージにでっかい絵を描かせてもらったり、勝手にイベントのポスターをプリントして持っていって貼ったり。村八分やフランク・ザッパ、ローザ・ルクセンブルグらがその昔ライブをやった場所と思うとうれしくて。ただその時にこけて初の鎖骨骨折。勝手に作ったイベントTシャツが全部売れたのに全て治療費に消えた」

また、自身の愛車も彼にとって思い出深い作品だ。

「個展に合わせて、Sunrise cyclesのフレームビルダーでBYOB factoryの主催者でもある高井氏の協力で制作した“アマゾン號”は一生ものかな。シルクスクリーンでこんなになった自転車はいまだに見たことがない。プリントした藁半紙を切り抜いてひたすらコラージュ。初めて立体にシルクを落とし込んだ自分の作品の中でもエポックメイキングなひとつ」

今年に入り、高井氏×ボギーのコンビで新たな自転車も誕生した。こちらは高円寺にあるCycle Socketという自転車ショップの依頼で制作したという。


ボギーは定期的に旅に出ることでも、作品のインスピレーションを得る。そこにはメッセンジャーと同じく、“肉体で経験することの大切さ”が根底にある。

「特に印象に残っているのは、20代の終わりに中南米を3ヵ月ほどブラブラした時のこと。メキシコの強烈な色使いや、方々で見まくった壁画や遺跡には衝撃を受けた。特にシケイロスの壁画は凄かった。元々派手な色使いで制作することが多かったけど、旅を経てさらに拍車がかかって、今まで使用しなかったモチーフも取り入れるようになった」


ボギーは今、シルクスクリーン一本で生計を立てている。それは彼がこれまで刷った回数、刷った枚数の結果だ。彼は東京の街を走っている時も、海外の壮大な景色に触れている時も、頭の片隅では“刷る”ことを考えているだろう。

「版画は元来複製ありきだと思う。その中でシルクスクリーンという手法を用いてさまざまな物にプリントを施し、立体物にコラージュして“複製できなくはないけどほぼ不可能に近い”っていうのが、自分の天の邪鬼な性格にハマっているんだと思う。最近は義足技師の方からの依頼で義足カバーなどに自転車と同じ技法でコラージュしたり、意外なところからのアプローチがあるので、それを通じてより研鑽を積んでいければと思う」

メッセンジャーが仕事として走らなくなり、路頭に迷うことは多々ある。走っても、走らなくても、自分が得たものを糧に何かを続けるしかない。Messenger as a lifestyle――ライフスタイルとしてのメッセンジャーを、ボギーという男はシルクスクリーンを通して体現している。

TEXT:ラスカル(NaNo.works
PHOTO:Boggy

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