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磯部涼による『ルポ 川崎』発行を記念したイベント&対談をレポート

ヒップホップカルチャーで重要なキーワードのひとつ、NEIGHBORHOOD。つまり地元。その土地土地の魅力や地域住民との繋がりは、ヒップホップのみならず表現に欠かせないものだ。先日、神奈川県・川崎市を地元としたアーティストや事象を取り上げた、ハードコアなルポルタージュ作品『ルポ 川崎』が刊行され話題となっている。連載当時から物議を醸し出していた、月刊誌『サイゾー』での記事を書籍化。ヒップホップ、レイヴ、フォークミュージック、ヘイトスピーチなど、川崎から生まれたさまざまな事柄から日本を見つめ直している。今回、その出版を記念したリリースイベントの模様をお届けしたい。


―取材の裏話も。刊行記念イベントをレポート

売り切れの書店が続出するほど反響のあるこの書籍。その刊行記念トークショーが、2018年01月17日(水)に代官山 蔦屋書店のイベントスペースで行われた。

「磯部涼『ルポ 川崎』&細倉真弓『写真集 川崎』出版記念トークショー「川崎は“地獄”なのか?」ゲスト: 開沼博」というタイトルで行われ、ライター、写真家、社会学者の三者が登壇した。

対談相手は2名。『ルポ 川崎』での写真を担当し、『写真集 川崎 KAWASAKI PHOTOGRAPHS』を同時に出版した、写真家・細倉真弓。そして磯部涼が対談相手として登場する書籍『社会が漂白され尽くす前に』を刊行したばかりの社会学者・開沼博。

当日は雨にも関わらず、著者たちの生の声を聞こうと集まった、音楽好き、川崎市民、関係者などで会場は満員となった。

『ルポ 川崎』著者:磯部涼


―語られていないストリートに踏み込んだ力作

まずは磯部が自分と川崎の関係性から切り出した。「僕の今までの記事は、ユースカルチャーというか若い人がやっている音楽をその時代その時代で取材していることが多く、最近はヒップホップについての取材が増えている。取材前の僕にとっての川崎は、駅前にクラブチッタという大きいライブハウスがあって、90年代から現在までのラップミュージックの聖地と言える場所があった印象。そこでは大きなライブが行なわれていてよく足を運ぶことが多かった。ただ、この連載が始まるまでは川崎の奥までは行かなかった」(磯部)

この連載のきっかけのひとつは社会現象からだという。「このルポを書いたきっかけはふたつ。ひとつは2015年に川崎市中1男子生徒殺害事件があって。陰惨な事件でもあったんですが、加害者グループの中にフィリピン系の若者がいた。そこから排外主義の火がついて、川崎でヘイトデモが行なわれたり。日本が抱えている問題があらわになった」(磯部)

また今までのキャリアを構築した音楽ライターとしての一面もきっかけのひとつだという。「また一方で、音楽ライターとして川崎で取材するようになったのは、いま日本はラップブームになっていて。そのきっかけがテレビ番組の『高校生ラップ選手権』。若い子がラップバトルをしていて。そこでスターになったのが川崎のT-Pablowで、その彼が率いているのがBad Hopというグループ。彼らにインタビューしてわかったのですが、過酷な環境で育ってきたし、『高校生ラップ選手権』で有名になったのにも関わらず実際はほとんどが高校に進学せず、中学卒業後はアウトローの道を進んでいたんですよね。そこからも日本が抱える闇みたいなものが見えて。そのふたつがあって、川崎を中心に描けるものがあるんじゃないかと思ったのがこの連載の発端です」(磯部)


―ゲストが語る“川崎”との関係性

そして、写真を撮影する細倉真弓が、今回の取材での撮影への思いを語った。「普段は若い男女のヌードを抽象的に撮るような作品を作っています。今回ドキュメンタリー写真は初めて撮ることになって、ドキュメンタリー写真の系譜も詳しくなかったのですが、磯部さんの取材に同行しながら形を作っていたんです」(細倉) 

続いて、ゲストである開沼博に感想を伺った。「良い本でしたが、その理由を。学術的な本でもノンフィクションでも、そこにある個別の特殊な対象を描いているようでありながら普遍的なものを写す鏡になっているということ。川崎という極めて特殊な対象でありながらも、日本の抱える問題であったり、希望であったりを写す鏡になっていて、そこには地域の歴史が投影されている対象を選んでいる。それをちゃんと書き切ったというのが素晴らしい」(開沼)

さらに、この本の核となる川崎区の歴史的背景についても説明をしてくれた。「川崎区の京浜工業地域は、戦前から日本の発展に重要な存在としてあって。戦中には軍需産業を支えたのが同じ場所で、そして戦後も復興の中で日本全国各地から労働者が集まってきた。その中でも朝鮮半島にルーツを持つ人たちは貧しく、日本人は住まない臨海部の湿地帯にバラック小屋を建ててコミュニティを形成した。とは言え、その後、川崎区は工場の労働者を中心にした街として大きくなり、バブルまでは栄えていて。彼らの娯楽のために、川崎の駅前の繁華街では“飲む、打つ、買う”というギャンブルや性風俗、飲み屋がすごく発展していった。現在ではそういう時代も終わって、だんだん街としても衰えていくところもあって。日進町なんかはくたびれた印象で、仕事にあぶれた年を取った方が簡易宿泊所で生活していたりする。この本では、川崎の不良の若者をメインで取材していたので、彼らはイキイキとしたところがあったんだけれど、対比するように街自体はくたびれていたのが印象的だった」(磯部)

―川崎ならではの身体を撮影?

普段ヌード写真を撮っている細倉には、取材対象の体が独特に見えたという。「この本の中では、若い人が多く出てくるので希望のようなものが大きい。取材した男の子には地下格闘をしているような子、工場で働いている子、現場仕事をしている子が多かったので、鍛えている力強い肉体が多くて。生きている場所が要請してくる体が川崎ではこういう形なんだなって。自分が普段撮っている子が中性的な子が多いので、今回はけっこう肉体の圧が強いというのがあって、そこは興味深く写真を撮れました」 

「地元の中学校の体育館が夜になると、地下格闘家の若者たちの練習場になるんですよね。その子たちも昼間は肉体労働で働いて、そのまま練習するんですよね。あと写真を撮っていて気になったのが、とにかく今の若い人は入れ墨を入れているんですよね。格闘家をやっている子はクラシックな和彫りだったり。ラッパーの中にはいきなり顔に入れる子もいたり。昔は背中からだったけれど、今はYoutube栄えもあって首とかにも入れている」と磯部は話を繋げる。

そういった若者の撮影は難航したのだろうか?「意外と撮られたいという若者が多かった。なので、写真を撮る事自体は難しくないんです。ただ、ラッパーの子が決めポーズをしてくれるんですけれど、それよりも決めた瞬間とその前の間にある、決めそこねた瞬間を写真家としては撮りたいんです。そのさじ加減が難しかったですね。それと、私が写真を撮る時の姿勢として(被写体を)100%肯定しています。撮らせてもらっている人がどんな人かは写真に写らないんですよ、表面としては写りますが。疑ってかかる姿勢だとそれが写真に出るのでは?と常に思っているので」(細倉)


―帯文の「地獄」に込められた思い

読者として疑問のある開沼は磯部に問いかける。「磯部さんに伺いたかったのは、2点。川崎以外の工業地帯でも街がある中で、川崎が特殊な進化を遂げたことについて。そして、川崎はエネルギーに溢れている感じがしますが、衰退しているんでしょうか、発展しているんでしょうか?」

それに対し、磯部は「この本のジャケットを手にとってもらった時に、まず引っかかるのは『ここは、地獄か?』という帯でしょうが、これは釣りみたいなもので。実際に読んでいただけたら、『ここは、地獄か?』という問いかけから始まるけれど、ここが地獄だったら日本全体が地獄なんだという内容なんです。川崎というのが特殊な土地ではないというのが書きたかったことのひとつです」と語り、社会の縮図として問題を取り上げているのだという。

「この本への批判として時々あるのが、偏った対象の取材をやりすぎ、川崎の悪い面を強調しすぎ、と。でも、そういうひとは、例えばヘイトデモがこれだけ川崎区で頻繁に行われていたことを知っていて、反対するために足を運んでいたのですか? つまり、〝偏った〟〝悪い面〟から目を逸らしていませんか? という風に問いかけたかった。あと、川崎区はスラムツーリズム的な、特殊な街に観光客気分で足を運んでみるという好奇の目にさらされるということがずっと繰り返されていて。ただ、実際にそこに住んでいるひとと交流してみると特殊な街ではないんだということが書きたかったことのひとつだと思います」(磯部)

そして現状についても冷静な視点で返答をした。「ただ、川崎は全体的には衰退していると思います。川崎に住んでいる若者たちに影響を与えたのが実はリーマン・ショック。その時間差で大企業の下請けをやっている工場にも影響が出て、そうなると労働者にも影響が出て。あるいはヤクザもカツカツになって、その下の不良がさらに若い子たちからもお金を巻き上げるようになって。彼らはそれを賄うために犯罪に手を出すようになって。もちろん、日本自体が衰退しているわけで、川崎はその象徴に過ぎません。でも、そのくだびれた街の中で、細倉さんの撮影した若者の生き生きとした感じや、ラップやスケボーなどの文化というものが闇の中に灯る光のように盛り上がり始めている。全体から見ればほんのひとにぎりだけれど、そこに可能性を見出している。そこに賭けてみたいというのが書き手としてあった」

この三者による貴重な鼎談は約二時間行われ、なかにはイベント中に文字起こしをする観客もいるほど関心の高いイベントとなり、最後まで満席のまま終わった。このトークイベントからわかるように、この書籍の記事は取材対象に温かい眼差しを持ちながら接することによって紡がれている。それによって、川崎という街から現在の日本の全体像を描き出すことに挑戦した力作になった。そして、川崎で起こっていることはあなたの街でも起こるかもしれない。日本の現状を知るためにも是非一読してほしい。


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