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「SUGARHILL」林陸也が視野を広げ続けるその先にみえてきた景色


みんなと違うことも「僕はこう」と思えること

今年8月に反響を呼んだ音楽イベント「HUE(ヒュー)」。その仕掛け人のひとりでもあり、「SUGARHILL(シュガーヒル)」デザイナーを務めるのが林陸也だ。これまでバンクーバー、文化学園大学、ここのがっこう、ニューヨークファッション工科大学(FIT)、武蔵野美術大学とさまざまな環境に身を置き、多様な価値観に触れてきた。自ら「飄々と渡り歩いてきた」という彼がつくりだす服にはどのような背景があるのか。日頃より親交があり、同ブランドのLOOKも手掛ける写真家・岩本幸一郎が本記事の撮影を担当したこともあり、林はリラックスした雰囲気ですこししゃべりすぎたようだ。


—20S/S「Illuminated eyeballs」のこのジャケットの襟のかたち、独特ですね。

これ「イカ襟」って言って、襟のかたちがダブルのスタンドカラーなんですよ。1940年代頃、モーターサイクルジャケットつくってたPeter’sが短い期間につくっていたかたちなんですけど、日本だと所有者が全員把握されてるくらいレアで。この前Hot Rodっていうバイクのカスタムショーで初めて現物見て、めちゃくちゃかっこよかったです。

—初めて知りました。ファッションに強く興味を持ったのはいつ頃なんですか?

ファッションデザイナーになろうと思い始めたのは、高2あたりです。そのときカナダのバンクーバーに語学留学してて。『JUNO』って映画観ました? その舞台になった学校です。当時は日本にいるときから好きだった雑誌『TUNE』に出てくるようなファッションして、ホームステイ先の家族と仲が良くなかったので、ずっと外で遊んでたんです。下半身なんかボロボロに破けてた。そしたら、そういう格好を気に入ってくれたRODEN GRAYっていう地元の老舗セレクトショップの人が、服やジュエリーをつくってる人を紹介してくれて遊ぶようになって。そこから興味を持ち始めました。


—バンクーバーはどうでした?

カナダは国全体で同性婚がOKなので、学校にLGBTの子がふつうにいるし街に出たらレインボーストリートっていうLGBTの通りがあるんですよ。移民の国でもあるので、いろんな人たちのいろんな思想に触れて視野がバッと広がりました。「日本ではどう」とかじゃなくて「僕はこう」って。考え方が違う人にも穏やかな気持ちで。みんな違いすぎますから。髪もそのときから伸ばし始めました。短いと思ってました? たまにそう言われるから今日はおろしてきました。急にこんな伸びないっす。


—失礼しました(笑)。バンクーバーから帰国後、ファッションの道に進むことになります。

高3の夏に帰ってきて、文化学園大学の国際ファッション文化学科に入学しました。そこは手作業メインでクチュール的なやり方をする学科だったんですけど、次第に自分が着たい服をつくりたいと思うようになって。学校の制度を使ってFITに行きました。FITはマーケティングやPRの学部のほうが大きくてビジネス色が強いので、僕の意識も徐々にデザインして着る服に移っていって。


—ニューヨークはどうでした?

同じ移民の国でも、ニューヨークはみんな目的があってきていて、意思の強さをすごく感じました。エネルギーは東京の比じゃない。タイミングを逃したらおしまい、つかめればどんどん飛躍できる。収穫はたくさんありましたが、ズブズブに浸かる前にいろんな価値観を持ち帰って比べるほうが視野が広がるなと。それで、SUGARHILLのファーストコレクションをつくってから帰国して成田からFACETASMに直行しました(笑)。デザイナーの落合さんがニューヨークのDover Street Marketでインスタレーションするときにお仕事させてもらったご縁があったので報告を。

—そのあとに武蔵美へ編入したのはどういった経緯で?

そこなんですよ、僕もびっくりで。文化に復学したものの、デザインに興味を持ち始めていたときで、さらに先輩から美大への編入の話を聞いたんです。調べたら、武蔵美の空間演出学部の編入試験が締め切り1週間後くらいとかで勢いで応募しました。そのあと一ヶ月でSUGARHILLの次のシーズン全部つくったら運良く受かって。超ラッキーです。

—武蔵美に入ってなにか変化はありましたか?

ある授業でボロクソに言われたことがあって、ちょっとやり方考えなきゃなと。それこそ編入制度の意味とかまで考えて、自分を俯瞰で見るようにしたんです。学部のなかには舞台美術もプロダクトも写真も映像もあって、隣の工業デザイン学部には金工や彫金なんかもある。デザインってファッションだけじゃないと自分の無知を感じ、視野もまたブワッと広がったんですよ。そしたら、卒業・修了制作展で優秀賞もらいました。ただの自慢です(笑)。


—さらに多様な視点が持てるようになったと。ところで、林さんって好きなものはなんですか?

酒とタバコとバイクと女(笑)。あとは音楽。特にバンドですね。ライブにもよく行きますし、なにかに喩えて歌っている人たちから共感することが多いので、そういう人の歌詞やインタビューからコレクションのテーマに引用したりもします。テーマの決め方に関していうと、半年のなかでなにが起きたのか、なにを伝えたいのかなので、ざっくりいうと特にないです。最近ハマってる音楽ですか? オーヴィル・ペックは衝撃的でした。マスクつけて、ムキムキな肉体にピチピチな衣装とウェスタンハット。これを2019年にやることを理解してやってる。たぶん2周目の人ですよね。

—初めて聞きました。たしかに人生を一度経験してきたような存在感があります。

オーヴィルからも思ったのは、いまの時代は自分のスタイルや伝えたいことをコントロールしてセルフプロデュースできるのが大事かなと。そのほうが共感もきっと得られやすい。ただ、全部は伝えたくないんですよ。いろんなところからディグってほしい。


—説明的になりすぎるのは無粋ですもんね。HUEの手応えはどうでしたか?

それが知らない人ばっかだったんですよ。誰かの知り合いだと思ったら誰も知らない(笑)。でもこれってすごいリアルだなと思って。SNSがなくてもつながれる、現場主義みたいな考えが戻ってきてるのかもしれない。僕らの世代は、大きな流れの裏を掻きたい人たちが徐々に声を上げてきているので、こういうかたちでつながった人たちと一緒に上がっていきたいですね。


—同世代を中心にいいつながりができてますね。今後、チャレンジしていきたいことは?

会いたい人に会いにいきたいです。みんなが知らない漫画家やバンドマンとかと月1くらいで対談して発信したい。なので連載ください(笑)。いまは20A/Wに向けて、Emilio Villalbaっていうサンフランシスコの画家の作品を見ながらデザインしてます。

林陸也
1995年生まれ、東京出身。「SUGARHILL」デザイナー。文化学園大学、ここのがっこう、ニューヨークファッション工科大学(FIT)を経て、2016年8月に「SUGARHILL」のファーストコレクションを発表。その後、武蔵野美術大学造形学部空間演出デザイン学科に編入。同学部内の「造形学部卒業制作優秀作品 2018年度」優秀賞に19A/Wのテーマでもあった『Black and Blue』が選ばれる。2018年よりDJ・Kotsu、「DAIRIKU」デザイナー・岡本大陸らと音楽イベント「HUE」を共同で主催。

Instagram: @rikuya_hayashi@sugarhill_tokyo

www.sugarhilltokyo.com

Text: Yoshinori Araki
Photography: Koichiro Iwamoto

Location:MIDORI.so OMOTESANDO
http://midori.so/midoriso_omotesando

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