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TRACK BIKEに魅せられた男

TRACK BIKEとは一般的に競技で使用される自転車を指し、日本では競輪をイメージしてもらえばわかりやすいだろう。競輪が行われるバンクではノーブレーキだが、公道ではブレーキが必須。ペダルと後輪が直結している固定ギアは後ろに漕げば後ろに進み、漕ぐ力を緩めるとスピードが落ちる。人力での操作性とダイレクトに力が伝わる自転車との一体感が魅力だ。

日本では2000年代後半にメッセンジャーが仕事で使い始めたことに端を発し、スケーターやファッションピープルも巻き込みながら一つのムーブメントを迎えた時期があった。その後、自転車にまつわるルールや道路交通法の強化により、現在はTRACK BIKEを取り巻く状況は変わっている。ものすごくざっくり言えば……あの頃ほど“何でもあり”ではなくなった。

日本のTRACK BIKEカルチャーは次のステップへと進もうとしている。そしてそのステップにおける重要人物が、中目黒で「25LAS BICYCLE WORKS」を営む25LASという男。彼が今年、TRACK BIKEによる1 DAYレースイベント「TRACK BIKE UNION」をスタートさせた。

「始めたキッカケは何と言ってもRED HOOK CRIT。僕らが日常的に使っている自転車で、こんなにもワクワクする遊びが提供できるのかとビックリしました。今までロードバイクのクリテリウムレースなどを観戦したことはありましたが、そんなに身近に感じなくて。TRACK BIKEでのクリテを日本でやってる人がいないならゴールは決まったし、最初の一歩目を踏み出しちゃうか~ってぐらいの軽いノリでした」(25LAS)

@Yoshinori Yamaguchi

“クリテリム”とは公道で他の交通を遮断し、決められた短い距離のコースを周回するレースのこと。ロードバイクでのクリテリムは日本でも行われていたが、RED HOOK CRITはこれをTRACK BIKEで行った点が画期的だった。RED HOOK CRITの始まりは2008年にNYのレッドフック地区で開催された野良レース。しかし今ではブルックリン、ロンドン、バルセロナ、ミラノでシリーズ戦が行われるまでの一大イベントに発展した。

TRACK BIKEにどっぷり浸かり、自身でBLACK SOX BICYCLE CLUBというクルーを率い、定期的にレースイベントも開催する25LAS。彼がRED HOOK CRIT に影響を受け、その流れを汲んだレースを開催しようとするのは自然な流れと言えるだろう。

「TRACK BIKE UNIONは地域や所属など関係なしに、TRACK BIKEにまたがる者同士が一致団結して楽しいことをしたい――基本的にはただそれだけ。ですがあくまでも自転車という大きなくくりではなくて、TRACK BIKE という一つの共通項でいろいろなものや人を身近に感じたい。あとは単純に僕が楽しいって思えるものを目の前で見たい」(25LAS)

そもそも25LASとTRACK BIKEとの出会いは約8年前。さらにその2年前から自転車屋で働き始めていた彼は、街中や雑誌などでTRACK BIKEをよく目にしていた。最初は静観していたが、ふとしたきっかけでTRACK BIKE を入手すると、その独特な乗り味に今でも忘れられないほどの衝撃を受けたという。

その熱は冷めず、2011年にはTRACK BIKEをメインに扱う自らの店「25LAS BICYCLE WORKS」をオープンした。

25LAS × BLACK SOX BICYCLE CLUB, full video teaser

「基本的に自転車やそれに関係するものは全て、見た目と機能性の両立を考えています。どちらかに偏ったものって、自転車に限らずお金さえ出せば何とかなる気がするんです。でもどちらも両立させたものは知識や経験、センスがものをいう」(25LAS)

@Nobuhiko Tanabe

@Yoshinori Yamaguchi

そんな25LASが主催するTRACK BIKE UNIONは、Vol.1を今年の5月、Vol.2を9月に開催。開催場所となった山梨県・境川自転車練習場の所長が25LAS、そしてTRACK BIKE UNIONに興味を持ってくれたことで実現に至ったという。レース自体は1周400mのバンクで1対1の1周トーナメント、10人混走5周、10人混走25周などが行われた。

TRACK BIKE UNION

TRACK BIKE UNION vol.2

最終的に東京でクリテリムレースを開催するには、越えなければいけないハードルは多い。規模は違えど、例えばマラソンなどのレースを公道で開催する場合に、どれだけの人とお金と準備が必要か想像してみてほしい。今は準備期間――困難な道のりだが、25LASはその過程をみんなで作り上げることを楽しんでいるだろうし、遊びの延長線上に未来を見据えている。

「大切なのは初心ですね。RED HOOK CRIT もそうだったように、ストリートの遊びから派生したってことだけは忘れずに今後も開催していきたいと思っています。ストリートって単語はダサいから基本的には使いたくないんですけど、説明するにはわかりやすいのであえて使います。TRACK BIKE UNIONというイベントも自転車と同じで、ストリート(見た目)の格好良さと機能性(競技内容)の両立が重要で、それを保つのは本当に難しい」(25LAS)

@MASANAO MATSUMOTO

それでも困難さえも楽しむのが25LASという男で、誤解を恐れず言えば、彼はまず自分が楽しむことしか考えていない。まず信じるのは自分自身で見たこと、感じたこと。

「こだわるというか割り切るというか……好きなものしか見ていないので、より深い視野を得ることができていると思います。そこから得た情報で、新たな人や商品に出会えているという自負はありますね。今の人たちってインターネットに頼りすぎて、こだわった気になっているだけな気がします。もっと自分の足を使って、自分の目で見比べたり感じたりしたらいいと思う。そうしたらもっと楽しい世界が待っているはずだから」(25LAS)

今日も彼はTRACK BIKEにまたがり、東京の街を颯爽と走りながら、次の“遊び”に想像を膨らませていることだろう。

TEXT BY:ラスカル(NaNo.works)
PHOTO BY:MASANAO MATSUMOTO、Yoshinori Yamaguchi、Nobuhiko Tanabe

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