search search

We Margiela マルジェラと私たち


天才デザイナーの夢と現実

ファッション好きなら誰もが名前を知っているけれど、顔を知っている人はほとんどいないマルタン・マルジェラ。自らの写真はほとんど公表せず、インタビューに答えるときはファクスで、その場合の主語は常に“We”だった。ある時点でメディアに失望し、表に出るのを止めたのだ。『We Margiela マルジェラと私たち』はそんなデザイナーと、彼とともに「マルタン・マルジェラ」という世界を創り上げた人々のドキュメンタリーだ。



1988年にブランドを立ち上げ2008年には一線を退いたマルジェラの影響はいまだ大きい。流行色など関係なく、コンセプトを打ち出した制作姿勢。古着などを素材にして、リアルなストリート感を持ち込んだこと。造形も独特で、スポーツソックスなどを素材にして、それまでは隠されるべきだったステッチもカッコよく見せた。前後、裏表、どこから着ても服は自由だと主張し、しかもそれをエレガントに表現した。80年代にコム デ ギャルソンがそうしたように、ファッション界の流れを突然変えたのだ。ショーを行う場所をストリートに変えたのもマルジェラだった。バービー人形用のニットのデザインを等身大の人間に置き換えたドールセーターやブランド名が書かれていないホワイトタグはいまでも伝説的で、古着が高額で売買されている。



マルジェラとともにブランドを立ち上げてビジネスを支えたジェニー・メイレンスは声のみの出演だが、初期のデザインにも協力したミス・ディアナのディアナ・フェレッティ・ヴェローニ、マルジェラのほかアントワープの6人のショーのメイクも手がけていたインゲ・グロニャール、マルジェラのアシスタントを務めたルッツ・ヒュエル、現ジル・サンダーCEOのアクセル・ケラーに、アレクサンダー・マックイーンのハーレー・ヒューズなど、現在もファッション業界でその名を轟かせる錚々たる人々がさらっと登場するのも見どころ。それぞれに自分に似合う装いで、インタビューを受ける仕事場も個性的で美意識が感じられるのも興味深い。



圧倒されるのは草創期のブランドの熱だ。「負ける覚悟なしに勝利はない」と自分のセレクトショップを売って資本金を準備したジェニーや「絶対に楽しめると私が保証する」と部下を説得したディアナという、先見性のあるビジネスウーマンに支えられ、スタッフもマルジェラの才能に惚れ込んで集まった人間ばかり。「一度あの会社に入ったら半端な気持ちで働くことはあり得なかった。選択肢はなくYesかNoだった」というケラー自身、マルジェラとの仕事に惹きつけられ、あえて無報酬でもという条件でブランドに加わった。



しかしビッグセールスになりながらもツアーのハードさでバンドが空中分解するかのように、マルジェラは疲弊してしまう。関係者たちが淡々と振り返るその過程も、解散したバンドについて元メンバーが語るのによく似ている。ブランドへの愛がゆえ仕事に没頭し、充実感を得る一方で徐々に全員が閉塞感を抱くようになってしまうのだ。「ビジネスに関して彼(マルジェラ)はまるで興味がなかった。プレイはしたいけど結果の責任は負いたくないの」というジェニーの言葉には諦念がにじんでいるようで、当時抱いていた孤独感が告白される。イタリアのファッション企業Only The Braveにブランドを売ったのがジェニーの最後の仕事だった。その後ジェニーは映画完成直前に亡くなり、マルジェラもブランドを離れた。



ビジネスマンなら本作を組織論として見ることも可能かもしれない。アーティスト志望者ならこの映画に独創的であることの孤高と自由を見るだろう。しかし何よりアートピースともいえる服やショーなど当時の映像の数々が、妥協のない仕事ぶりの厳しさと美しさを私たちに伝え、この映画を特別なものにしているのだ。


 

2019年2月8日(金)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開



(C)2017 mint film office / AVROTROS
公式HP:wemargiela.espace-sarou.com

SHARE

}