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「こだわらないことがこだわり」平山昌尚のZINE

HIMAAこと平山昌尚(ひらやま・まさなお)は、とらえどころのないイメージがあるアーティストだ。その実像を捉えたと思ったらすぐに一流のユーモアで解釈をすり抜けてしまう。彼の活動は、スイスのインディペンデントパブリッシャー・ニーブス(Nieves)から多くのジン(ZINE)をリリースし、BEAMSとのコラボレーションによるアパレル・グッズも販売する。またLINEスタンプやステッカーなども人気で、多彩な活動を展開している。一見こどもが描くようなイラストだが、その裏には確かなコンセプトがある。

ジンとは、一般の書籍よりもラフな本のかたち。ワンテーマで、イラストや写真、詩などが一冊の本にまとめられている。このジンをアートの領域と結びつけた出版社がNievesである。なぜ、平山の最初のジンは海外からのリリースだったのだろうか?

「2006年ぐらいです。スイスに行く機会があって、出版社の人に『会いたい』と連絡したら、『アート・バーゼルに出展するから遊びにおいで』と言われました。その時は会っただけで、連絡が来たのは1年後でした」


―飄々とした作風とジンの相性の良さ

最初に作ったジンは、顕微鏡から見える光景がクローズアップされていくリリカルな内容。平山がジンの出版に力を入れ始めたのは、もともとの作品スタイルと相性が良かったのだという。

「自分はカンバスではなく、小さいサイズで並べて見せるスタイルでしたから。普段描く絵と、ジンのフォーマットの相性が良かったんです」と語る。これまでNievesとのジンは10数冊発売されているが、どれもスキャンデータをメールでやりとりして制作されている。

「打ち合わせも制作も全部メールです。僕がシリーズで描きためたものを提案することもあれば、話し合ってテーマを決めることもあります」


―示唆に富むコンセプトを用いた作品たち

他にも、本の中にページ番号が書いてあって、インターネットのリンクのように他の作品に飛んで閲覧するゲームブックのような「1911」(2010年)など、ユーモラスなテーマを持つジンも。

こういった「ゲーム性」は平山の作品のなかで重要な要素になっている。「ゲームには影響を受けています。僕はファミコン世代なのですが、親からは目が悪くなるという事で買ってもらえませんでした。でもどうしても遊びたかったので、カセットだけ買って友達の家に行って遊んでいました。マリオ、ピンボール、ドンキーコングなど。ゲーム性のあるものを作りたいという要求はその頃の影響がありますね。」

そのゲーム性は、山の稜線から名前を当てる「マウンテンクイズ」(2011年)、積まれた岩の数からピラミッドを当てる「ピラミッドクイズ」(2014年)でも発揮されている。

「ただ絵が描いてあるよりも、クイズにするのも良いなと思いました。『このピラミッドは何?』という問いだけでは不親切なので、巻末に答え(ピラミッドの名前)を書いています。」

平山のこだわりは、鑑賞者を楽しませる仕掛けを潜ませること。「ピラミッドクイズ」では、それぞれのヒントになるピラミッドの底辺×高さも書かれている。「個人的に、ピラミッドへの思い入れは無いです」と思いもよらない発想の原点を明かしてくれた。


―思い入れのなさから生まれる思いつき

「カラーリングブック」と銘打った、塗り絵と名付けるにはシンプルすぎるドローイングのジンのシリーズでは、鑑賞者に対するアプローチもある。「僕はあまりドローイングに色をつけませんが、『カラーリングブック』と名付けると、鑑賞者の頭の中に色が浮かび上がりますよね」。

他には、サッカースタジアムの観衆の中から、見本と同じ人を探す『ウォーリーを探せ』的な「Find Me」(2015年)。一見まったく同じ棒人間がたくさん描かれているようだが、平山のなかでは全て異なる人物として描かれている。 

「サッカーも興味はないんですが……。これは負けている側のオーディエンスは手を下げていて、勝っている方のオーディエンスは手を上げているんです。転んでる人もいるし、ファールもあるし、乱入しようとしている観客もいるし」。思い入れ深く描かれがちなサッカーというテーマでも、対象との距離のとり方が平山らしい。

常にニュートラルな姿勢で、遊びを盛り込む。その飄々としたスタンスが今の東京の気分とマッチし、平山の名を高めている。「ジンなら一人でも作りたいものをそのまま形にできます」。



―世界観を拡充させるLINEスタンプ&ステッカー

ZINEだけでなく、平山の作品のなかでも人気が高いのがステッカーとLINEスタンプ。Illustratorで描かれたシンプルな表情とシュールなメッセージの組み合わせは、日常生活のどのシーンにもそぐうユニークな作品だ。最初にステッカーが登場したのは2014年のこと。

「きっかけはLINEスタンプに一般参加できるようになったからです。当時はなかなか申請が通らなく時間がかかりました。審査を待っている間、じゃあ素材はあるからということでステッカーを作って発表しました」。

一番最初のステッカーはジンを意識したもので、簡単なことばにも対訳がついていた。次のバージョンからはステッカーのみになっている。「このシリーズはIllustratorで描いているので、パソコンならではの方法を利用しました。コピペやエフェクトなど、様々なバージョンを発表しました」。

LINEスタンプは、現在は16種類リリースされている充実ぶりだ。そのうちの2つはアニメーションするスタンプ。「LINEスタンプにもゲーム的要素があります。スタンプだけでどこまでコミュニケーションできるか。同じスタンプでも文脈によって意味が変わったり」。

平山自身が普段良く使うのは動くスタンプだという。あらゆるコミュニケーションを脱力させてくれる平山のLINEスタンプ。是非ダウンロードしてみてほしい。

ウィットのきいた独自のユーモアで、見た人の心に何かを残す平山の作品。アートを日常に溶け込ませる、それが真の意味でできるのは平山の才能だと思う。その真髄を、ジンやスタンプでも感じてほしい。


TEXT: 齋藤あきこ
PHOTO: 菊池良助

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